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後日談
橋下は桜木町の駅前に来ていた。
早川は〈clubD〉が〈東会〉絡みだという情報を早くから手に入れていた。だがぼったくりというにはあまりにもグレーで警察に密告ったところでどうにもならないことも分かっていた。
「だからこそ正攻法で潰す」と早川はすぐにそのビルの四階の全フロアを借り切った。そしてその手のことに詳しい真中に丸投げした。先払いしてある物件を真中は喜んで受け取った。早川の指示は一つだけ。「すぐに開店しろ。一日も早くあの店を潰す」。真中は内装を二週間で整えて開店にこぎ着けた。
橋下は早川に指示されるまでもなく店がどうなってるのか見にきた。できれば〈clubD〉の惨状も偵察して帰りたいものだろ思いながらその場所に向かった。
「あれ? 橋下さんじゃないですか?」
道路の端に見かけたようなマウンテンパーカーにグレーのスラックスの男がチラシを持って立っていた。
「──木崎? なにやってンだ?」
橋下はその手に抱えられているチラシの束に目を落とした。
「チラシ配りか? またどこかの手伝いでもやってるのか?」そんなにチマチマ稼いでどうすると内心呆れながら聞いた。
「真中のせいですよ!」
うん?
「急なオープンだから女の子が集まらないからって、麗華さんと譲葉に手伝いを頼みにきたんですよ!」
なるほど。確かにかなり急がせたから、女の子が揃わなかったのかもしれない。だがそれと木崎のチラシ配りと何が関係あるんだ?
「おい、テメエなにサボってんだよ」橋下の背後から声がした。聞いたような声だった。
「──なに、やってンだ?」振り返るとそこには梨田が立っていた。手にはやはりチラシの束を持っていた。
「何もお前がやらなくたって」橋下がそう尋ねると、梨田は下を向いてモゴモゴと言い始めた。
「いや、その、譲葉チャンに変な客を寄せたくねえっていうか」
「真中の野郎が無理に頼むからですよ! 俺だって心配ですし」
「テメエ、ヒトの親父に〈野郎〉なんて言いやがって!」梨田はそう言って木崎を蹴った。
「痛いですってば」
「うるせえ。さっきから道ばっか聞かれやがって」
「仕方ないじゃないすか。聞かれたら教えるでしょう? 普通」
「限度ってモンがあるわ!」
二人はなんだかんだと言い争いを始めた。橋下は苦く笑うしかなかった。なるほど、この二人は変な客を入れないようにしている番犬というわけだ。
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