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「名古屋っすかあ!」菅原はすぐにスマホでウキウキしながら検索を始めた。立石も大倉も強張った顔をしたというのにこの温度差はなんだ。
「もうすぐ副島さんと大倉が戻って来るから、それから詳しい話をする」
「りょーかいっす」菅原はすぐに席に着くと、メモ張に何やら書き込み始めた。味噌カツもいいけど味噌煮込みうどんもいいよなとか呟いている。
「ひつまぶし……あ、やべえ。ひまつぶしって書いちまった」
だから何しに行くんだ、俺たちは。理由を考えろ。橋下はこめかみを押さえた。
「頭痛っすか? コーヒーじゃないほうがよかったっすか?」立石は橋下のそばに来てそう言った。
「コーヒー以外に何があるんだ?」
「カフェインレスならルイボスティーっすかね」
いつからこの事務所は小洒落たカフェになったんだ? 橋下は「コーヒーでいい」と呟いた。
副島と大倉が事務所に戻って来た。話があると声をかけるとすぐに二人はやって来た。橋下の向かいに副島と大倉が座っている。立石と菅原はそのそばに立っていた。
橋下は取引きを見守るために名古屋まで行くと伝えた。
「相手は〈中京連合〉だ。何をするか分からねえ。それをだな」
「見守るなんて変な表現ですねえ」すぐに副島が食いついてきた。「〈中京連合〉を潰すために行くじゃないんですか?」
「取引きを行うのは〈鳴門組〉と〈中京連合〉だ。その最中に警察が乗り込んでくる手筈になってる」
「それじゃあ私達の出る幕はないじゃないですか」副島は退屈そうに脚を組んで、ソファに背を預けた。
「普通の取引きならそうなる。だが相手は〈中京連合〉だ。絶対に何か仕掛けて来るはずだ」
「待って下さい。それじゃあまるで私達が〈鳴門組〉のために出張っていくみたいじゃないですか」
「結果的にはそうなる」
橋下がそう言うと、副島は不満そうに片眉を上げた。
「冗談ですよね?」
「正確には〈鳴門組〉側にいる春日という男を死なれないようにしたい。いや、絶対に死なれたら困る」
「その男はなんなんですか?」
「春日自体は普通の構成員だ。頼んできた相手から『絶対に死なすな』と言われている」
そこまで聞くと副島はふーんと興味なさそうに鼻を鳴らした。
「春日って奴はどんな奴なんすか?」大倉がやっとまともな質問をしてきた。橋下はホッとしながら、春日の写真がついて簡単なプロフィールが書かれた資料を配った。
「普通に強そうに見えますけど」立石は資料をざっと見るとそう言った。隣で菅原が資料を顔の近くまで寄せて食い入るようにみていた。
「しかも歴も二十年以上だし。ベテランっすよね?」そう聞いた立石の隣で菅原が「あっ!」と声を上げた。
「この人魔神ブウに似てるっすよね!」
確かに似てるがそこはどうでもいい。橋下はわざとらしく咳払いをした。
「とにかくこの男を守るのが今回の仕事だ」
副島は資料をテーブルの上に投げた。「気乗りしませんねえ」
さすがの橋下もカチンときた。別にこちとら副島の一人や二人いなくたって構いやしねえンだ。
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