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「じゃあ副……」
「えー、副島さんも名古屋行きましょうよお。俺さっき〈焼き太きしめん〉の店を見つけたンすよ。鉄板の上に赤味噌だれのきしめんが乗ってて、すげえうまそうなんすよ。行きましょうよ! 味噌おでんも食ってみたいし」
菅原がそう言うと「味噌おでんですか」と副島は考え込み始めた。「いいでしょう。味噌おでんは気になります」
「鉄板のきしめんもうまそうなんですって」
副島は投げたはずの資料を再び手に取った。「とにかくこの男を守ればいいんですね?」
味噌おでんを食いたいだけじゃねえか。橋下はそう言いたいのをグッと堪えた。
橋下は取引きの詳細が分かったら連絡するから、すぐに動けるようにしておいてくれと言った。
「あの〈中京連合〉ってやべえ奴らなんすか?」立石はそう尋ねた。
「まあ。取引きの最中にいきなり撃ってくるくらいだからなあ」
「じゃあこっちもそれなりの装備をしとかねえとって感じっすか?」
「銃は持ってなかったか?」
「いや、ニューナンブはありますけど」
「それだけだと心許ないですね。ベレッタを貸して差し上げます」副島が自慢げに口を挟んできた。立石は「ありがとうございます」と頭を下げた。
「菅原は持ってるんですか?」
「俺は銃はあんま上手くねえし。もしよかったらAEDを持って行ってもいいすか?」
「AED? 心臓マッサージでもするのか?」
「いや、心臓マッサージはできねえっす。そっちじゃなくて、バーンって燃えるヤツっす」
「それはIEDですね」
そう、それそれと菅原は副島に嬉しそうに言った。
「IEDなんてどこかで使ったか?」
「あー、倉庫の中で見たっす。タカが椅子の上に置いたら、ユージがでっかい銃で撃ったらバーンって燃えて。一発で当たったんすよ! カッコいいなあって」
橋下はすぐに家入の件だと気がついた。そういえば菅原を家入側に潜入させていたことを思い出した。『何があっても絶対に手を出すな』と言い聞かせて送りこんだ。後に『大倉の兄貴に申し訳ない』と大泣きしてたけれど。
当の大倉は「タカとユージって〈あぶない刑事〉か?」と首を捻った。どうやら何も覚えていないらしい。
「──菅原クン。その話、あとで詳しく教えてもらえます?」
副島はこめかみをピクピクさせながらそう言った。どうやら副島も思い出したらしい。副島は「IEDを用意しますよ」とかサラッと言ってるが、どうやらどうにも悔しいらしい。
橋下は一旦話を締めて、解散とした。
立石は大倉にベレッタの扱い方を聞いていた。その二人はいい。どうやら立石にとっていい経験になりそうだ。問題は副島と菅原だ。副島は菅原に当時の状況を事細かに尋ねていた。菅原は嬉々として話す。その度に副島の貧乏ゆすりは激しくなっていった。すでに何で名古屋まで行くのか目的を忘れているようだ。
橋下は早川に報告に向かった。早川は橋下が自分のそばまでくると、ニヤニヤしながら顔を上げた。
「──菅原に助けられやがって」開口一番そう言った。そしてすぐに声を潜めた。
「テメエは副島に『だったら来なくていい』って言うつもりだったろ?」
橋下は答えに詰まった。確かにそうだった。
「全くどいつもこいつも。菅原に助けられてんじゃねえぞ」
「すんません」
「相手を舐めてかかるな。副島の力は絶対に必要になる」
「はあ」
「俺はてめえらを過大評価も過小評価もしてねえ。俺が必要だって言ったら必要なモンなんだよ。そこんとこ間違えるな」
「すんません」
橋下は頭を深々と頭を下げて、席に戻った。副島はどこかに電話していて「S&W M500を手に入れたい」と話をしていた。一体どこで使うっていうんだ?
大倉は立石と菅原に銃について教えていた。大倉に丸投げしたい。ついそう考えてしまって慌てて頭を振った。若頭が必要と言ってるんだ、きっと必要なんだろう。そう思い込むことにした。
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