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episode 2 名古屋へGO 2
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橋下が手に入れた情報では、取引きは夜八時に名古屋の繁華街から車で二十分ほど行ったところにある廃ビルだった。取引きには少し早い時間だと思ったが、Googleマップで確認したら周り建物はほとんどなく、八時でも十分な時間だった。それも情報屋を通じて警察には知らせてある。
名古屋までは四時間ほどで着くが、万が一に備えて前日に出発することにした。前日に取引き現場を確認して、当日は二手に分かれる。〈鳴門組〉の事務所から現場までついていく班とずっと現場で張っている班とだ。〈中京連合〉が何か仕込んでいないとも限らないからだ。
何もなければ取引き現場に警察が踏み込んで終了の案件だ。何もすることがない。だが早川はそうは考えていないようだった。長年の経験からか、早川のそういう勘は当たる。橋下は愛用のS&W M27のメンテナンスを始めた。使うことはまずないと思うが。それでも持っていかないという選択肢はなかった。
当日はアルファードで向かうこととなった。
「車二台で行ったら、途中ではぐれそうだからまとまって行け。向こうに着いたら磯村さんのところから車を借りれるよう手配しておいたから」と早川は言った。
何故そういうところの手筈は整っているのか。橋下はつい返事を忘れて真顔になった。名古屋に向かう車の中くらい癒しの時間が欲しかった。
早川は「親父に無理言って借りたンだぞ?」と続けた。
「今回の件を親父に話したらいい顔をされなかったな。『どうしてもってンならやれ。その代わり失敗したら若頭は代わってもらう』って言われてなあ。なんでそこまでの話になるのかは分からねえが、よほど親父は気に食わねえンだろうな。そういうことだから」
早川はそう言って頭を掻いた。
「──それって失敗できないってことっすよね?」
橋下が話すと大倉はすぐに反応した。
車は立石の運転で名古屋に向かっていた。一番後ろには副島と橋下が座っている。真ん中には大倉と菅原がそれぞれ左右に座っている。人数の割に広い車内を悠々と使っていた。
「まあ、そういうことだ」橋下は出がけに早川にそれを言われて以来、なんとなく胃のあたりが重い。無意識に胃のあたりを摩っていた。
「橋下さん、これ」菅原が薬とペットボトルの水を差し出した。
「今日の分のガスターっす。ちゃんと続けないとよくならねえって」
橋下は「ああ」と返事をして受け取った。菅原は胃薬を変えてから、薬の時間をきっちり管理していた。
大倉の顔は強張っていた。きっと立石もだろう。運転席をチラリと見た。
副島は外を眺めて何の反応もなかった。聞いているのかいないのかすら不明だ。
「うーん。でもなんかおかしくないすか?」急に菅原が口を開いた。「そこまでのことを俺なんかに任せますかね?」
「うん?」
「いや、そんなに大事なことだったら竹内さんとか郷原さんとかを行かすじゃないすか? 間違っても俺に任すとは思えないんすよ」
「ま、まあな」自虐なのか何なのか菅原は真顔で言っていた。橋下は返答に困った。
「しかも『若頭は代わってもらう』って言ったんすよね? それっておかしくないですか? 普通なら『若頭をおろす』とか『辞めてもらう』じゃないすか」
「まあ」
「だからそれって『失敗したら代わりに組長を継げ』って意味だと思うンすよね」
「はあ!?」
「だって親父はずっと引退したいって言ってたわけじゃないすか。けど若頭はそれを許さなかった。もし失敗したら若頭につけ込む隙が出来るっつーか。すごくいいタイミングになるんじゃねえかなって」
菅原がそこまで言うと、副島が弾けたように笑い出した。
「なるほど! それはそうですねえ。あの狸親父ならやりかねません」副島は笑いすぎて涙すら出てきたようだ。指で目尻を拭っていた。
「さっきから何だか違和感があったんですよ。それをずっと考えてたんですけど。なるほど、確かにそれはそうかもしれませんねえ」
「でもそれだって失敗できねえって意味じゃ同じじゃないすか」大倉は眉間に皺を寄せながら言った。「若頭は親父に引退させたくないわけだから、やっぱり失敗はできねえってことっすよね?」
橋下は大倉の問いにすぐには答えず考えてみた。
「──失敗して親父に引退されたら、めちゃくちゃ面倒くさいことになるな」
間違いなく荒れる早川を想像して、橋下は気分が悪くなってきた。
「ですよね。つか余計に失敗できねえって」大倉は菅原にそう言った。菅原は「あ、そっか」といまさら気がついたように答えていた。
副島は外を眺めながら、まだ思い出したように笑っていた。
「──あの狸親父、余計なことをぶっ込んできやがって」そう小声で呟いていた。
確かにそれは副島に同意だと橋下は思った。余計なことをぶっ込んでくるのはやめて欲しい。このチームで仕事を完遂することだけで手一杯なのだ。
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