episode 2 名古屋へGO 2

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 途中でSAに寄って運転手を交代した。次の運転は菅原だ。時間は順調だった。だが走り出して程なくして副島が次のSAに寄るように指示を出した。体調でも悪いのだろうかと橋下は副島をチラリと見たが、そんなことはないように感じた。  SAに着くとすぐに副島は運転席に向かった。そして「私が運転します」と言って菅原を退かせてしまった。あまりの早技にみなポカンとしてそれを眺めるしかなかった。 「チンタラ走ってンじゃねえ」副島はそう言ってすぐに発進させた。大倉は慌てて助手席に座った。 「名古屋に着くのに三日かかるわ」 「すんません」菅原はそう言って小さくなった。橋下は小声で気にすんなと囁いた。どうせ暇を持て余していただけに違いないのだ。  菅原の運転は遅くはない。ただ少し丁寧なだけだと橋下は思っている。実際一番寝やすい。副島がスピードを出すのが好きなのは単なる個人的な趣味だ。  副島はどんどんスピードを上げていった。 「どうですか? アセントに乗った時と変わらないでしょう?」副島は自慢げに言った。 「いや、まあ」大倉は曖昧に答えた。 「おや、何か違いますか?」 「あー、なんつーか遠山の親父さんの時は『うおおお、すげえ』って感じで、もっと荒々しいっていうか。車が違うせいもあるんですかね?」 「は?」  副島はアクセルを踏み込んだ。急な加速で身体が持っていかれる感じがした。 「荒々しいってこんな感じですか?」 「いや、そういうんじゃなくて」大倉は真面目に答えている。  そこは適当に答えてもらえないだろうか。酔うまではいかないが、安心して眠っていられない。橋下は二人の会話をぼんやりと聞いていた。なんだかんだと言い合っている。大倉もだいぶ副島に慣れたらしい。  それはそれで喜ばしいことではある。だが今やらなくていい。橋下は仕方なく目を閉じた。どう考えても眠れる気はしなかった。 「あ、マルシン積んだカブじゃん」立石が急にそう言うと菅原も慌てて目を向けたようで「マジかよ! マルシンじゃん!」と叫んでいた。うるさい。  それから二人は「そうなんだよー藤村くん」とか言い出して、宮大工の真似が始まった。「釘なんか使わないよお」菅原がそう言うと立石がギャハハと笑った。  それから〈建もの探訪〉の渡辺篤史の物真似が始まり、最終的には「小林製薬の糸ようじ」と菅原が連呼して、立石が腹を抱えて笑い出した。 「お前ら、うるせえぞ」橋下は薄目を開けてみていたが、とうとうすっかり目が覚めてしまった。 「すんません」 「なんだよ、さっきから〈小林製薬の糸ようじ〉って何回も言いやがって。テメエら小林製薬の回しモンか?」 「違いますよお、〈水曜どうでしょう〉ですって」 「橋下さんは見てないんすか?」 「見てねえわ」 「えー、橋下さんの世代なら絶対観てると思ったのに」菅原が口を尖らせて言った。 「俺の世代なら何でお前らが観てンだよ?」 「再放送っすよ。tvkの」  橋下は少し驚いた。立石や菅原の世代ならテレビなんか観ないと思っていた。しかも昔の番組なんて。 「お前らくらいだとYouTubeなんじゃねえの?」 「そりゃあYouTubeも観ますけど」立石と菅原が顔を見合わせた。 「ずっとは観ないっすよ。広告ウザいし」 「なんとか会員になると広告ないんじゃなかったのか?」 「そんなカネないっす」 「〈猫ひた〉と〈関内デビル〉が観られればそれでいいんで」 「それはなんだ?」 「tvkの番組っす」  お前らはtvkの回しモンか? そう言いたい気をグッと堪える。確かに立石と菅原が十分に稼げているかというと、そうでもないだろうと思ったからだ。  そして二人は何やら歌い出した。よく分からない。だが楽しそうなので放っておくことにした。
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