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episode 2 名古屋へGO 3
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名古屋に着くと先に取引き現場を見に行くことにした。その廃ビルは周りに何もないのであまり近づかないことに決めた。どこに〈中京連合〉がいるか分からないからだ。
「何でこんなところにポツンと建ってるんですかね」立石がふと呟いた。
「ああ、なんかマンションが建つらしかったが結局取りやめになったみたいだな。それに大型スーパーがここからそう遠くないところに建ったもんだから、そっちにマンションが建ったらしい」橋下は資料を手にそう言った。一応調べられることは調べてきたつもりだ。
「けどこんなとこ警察に囲まれたら一発アウトじゃないすか。道路は広くないし、幹線道路まで結構あるし」
菅原はそう言った。大倉と副島はじっと廃ビルを眺めていた。菅原に言われるまでもない。橋下もずっと気になっていたことだった。〈中京連合〉は恐らく何か仕掛けてくるだろう。今はただの勘でしかないが。
先に磯村に車を借りに行くことになった。磯村の家は名古屋の高級住宅地と言われる東区にある。もともと土地持ちの名家だ。広く事業も手がけており、老舗の料亭も経営している。今回行く予定はないが。
磯村の家の門の前に車を停めインターホンを押す。すると「車で中にどうぞ」と返事があった。門が自動で開き中に入ると、家の中から壮年の血色のいい男性が出て来た。そして家の隣の建物に向かうよう指示した。
「お久しぶりです」車から降りると橋下はすぐに頭を下げた。
「もっと早く教えてくれれば一席設けたのに」磯村はすぐに答えた。「車だけ貸してくれだなんて早川さんもねえ」と苦笑した。それは仕方がない。遊びで寄ったわけではないのだ。
自宅の隣の建物のシャッターを開けると、そこには車がズラっと並んでいた。どうやら建物全てが車庫らしい。車は全部で六台あった。二台は外車で、残り四台はトヨタの車だった。
「すげえ」立石も菅原も目を輝かせていた。それもそのはずだった。発売されたばかりの新型クラウンがあったのだ。
「つい買っちゃったんだよねえ」磯村は頭を掻いた。つい買える金額でもあるまいと橋下は心の中で突っ込んだ。
「さすがにクラウンは貸せないけど、一番奥にあるGRヤリスならどう乗って貰っても構わないから。孫にやるつもりだったけどクラウンの方がいいって言われちゃって」磯村はそう言って笑った。
「は、はあ」橋下は引き攣った愛想笑いを浮かべた。買ってやる爺さんも爺さんなら、高いほうをねだる孫も孫だ。
ヤリスに乗るなら立石と菅原だなとすぐに考えた。だが予想に反して副島が興味を示した。磯村は「これから観光かい?」とのんびり尋ねた。橋下は曖昧に答えて笑って誤魔化した。
副島は結局自分が運転したいと言い出し、橋下は仕方なく大倉に同乗するように頼んだ。
明後日の朝には返しに来ると磯村に伝えて、その場を後にした。海藤の古くからの友人で早川と懇意にしてる重鎮から解放されて、橋下は肩の力が一気に抜ける気がした。
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