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「しかもあんな可愛い感じの熟女とどこで知り合ったんだろ」
「飲み屋じゃないか?」
「課長が女の人がいる飲み屋なんかに行くか? 仮に行ったとしても気が合うとか思わないけど」
「お母さんは滝本さんがだいすきです」真理衣はそう言うと「ね?」と譲二の顔を見た。お子様ランチの真っ赤なスパゲッティを頬張っていた譲二は慌てて頷いた。
「大好きって恋愛的な意味で?」
赤堀の問いに真理衣は首を傾げた。
「赤堀くん。そういうのは聞かないの。子どもが親の恋愛なんて聞きたいとは思えないわよ」
「え! マジであの女性の子どもなんすか?」
さっきからお母さんと何度も言ってるではないか。川上はこめかみを押さえた。
「僕は滝本さんがだいすきです!」やっと飲み込んだ譲二が勢いよく言った。
「私も!」真理衣もスプーンを振り上げて言った。
「へえ……変わってるな」三池は二人の顔をそれぞれ眺めながら呟いた。
滝本の前に注文した品が届いた。滝本は再び週刊誌のページを開き、それを眺めながら食べ始めた。しばらくするとそっと週刊誌のページが閉じられた。
「そういうのお行儀が悪いって怒られなかった? はい、あーん」
そう言うと千夏は唐揚げのみぞれ和えを箸で摘んだ。滝本は驚いて言葉が出ないようで千夏に目を向けたまま固まっていた。
「ちゃんと食べられないなら食べさせてあげる。はい、あーん」
唐揚げが滝本の目の前に迫ってくる。
「いや、あの」
「黙って口開けて。ね?」千夏は小首を傾げた。滝本はしどろもどろとしていたが、最終的には口を開けた。
「美味しい?」
「ああ」
そう言って滝本は手で顔を覆い隠していた。川上のところから滝本の顔は見えなかったが、絶対に照れてるに違いない。
「……なんかすげえ」
「だな」
赤堀と三池は箸を止めて二人をガン見していた。
「ちょっと」川上は慌てて二人に声をかけた。
「あーん、です」
「あーん、です」
三池と赤堀それぞれの前にスプーンが差し出された。
「えっと?」
「あーん、です。ハンバーグは嫌いですか?」
「いや、嫌いじゃないけど」
「だったら頂いちゃいなさいよ」川上は焦れたように言った。三池は譲二の掲げたスプーンを口に入れた。
「お子様ランチっぽい味がする」
「お子様ランチなんだから当たり前でしょ」
「あーん、です」
「エビフライじゃなくていいって、それは食べなよ。ポテトちょうだい」
真理衣は首を傾げていたが細切れのエビフライを置いてポテトを乗せた。赤堀は「たまにめっちゃ食べたくなる」と喜んでいた。
その間に滝本は「自分で食えるから」と観念したように週刊誌から目を離して食べ始めた。千夏は満足したように滝本を眺めていた。
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