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副島と一緒に部屋に向かう。三人は隣の部屋だったが、橋下は何となく気が重かった。副島と泊まりの仕事は今までだってあったことはあった。だがそこは気を使って部屋は別々にした。経費削減と常々言ってはいるが、まさかこんなことになるとは思わなかった。だったらホテルのグレードを下げてもよかったのではないかと思った。
部屋は改装したのかクリーム色の壁紙の落ち着いた部屋だった。ベッドも思ったより悪くなさそうだ。
副島はさっさと水回りを調べに向かってしまった。
「風呂も悪くはないですね」戻って来た副島はそう言った。「バストイレ別ですし」
そういうところはちゃんとしてるんだなと橋下は思った。若い者に任せて良かったのかもしれないと考えを改めた。
部屋からすぐに繁華街へ繰り出した。もちろん目当ては名古屋飯である。
「味噌おでんの美味しそうなとこ見つけたんす」菅原が手配したらしい。「味噌おでんだけなら他に行ってみたいところもあったンすけど、そこってカウンター席しかないんすよ。さすがに五人一列で食べるのはどうかなって」
そういうところは一応考えているらしい。
「それで二番目に行きたいとこにしたんす。味噌カツも食えますし」そう言って橋下を見てニッと笑った。橋下は副島の手前言い出せなかったが、味噌カツを食べたかったのだ。どうやら菅原は分かっていたらしい。
「ずいぶん洒落たビルだなあ」立石はその店が入ってるビルを見上げてそう呟いた。「なんか気がひけるっつーか」
「そんなこと気にすることないじゃありませんか」副島はそしらぬ顔をして進んで行った。「立石は若いんです。それに……一番気にすべき人が気にしてないんですから、気にすることはないんです」
うん? 立石と菅原は首を傾げた。副島は前を歩く橋下にチラリと目を向けた。「ね?」
確かに橋下はこのお洒落なテナントが立ち並ぶ店内からは浮いている。どう考えてもその筋の人にしか見えない。
「あー」
「確かに」
「さあ、行きますよ」副島は橋下が振り返る前に二人を急がせた。二人は橋下のそばに駆けて行った。そして両脇に並んで橋下にじゃれついていた。大倉は犬みてえだなと後ろから眺めていた。
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