episode 2 名古屋へGO 3

4/6

885人が本棚に入れています
本棚に追加
/296ページ
「これが味噌おでんですか!」副島は味が染みて色が変わった大根を見て歓喜の声をあげた。そしてひと口食べて顔を綻ばせた。 「この色がいいですねえ。醤油じゃなくて味噌っていうのがまたなんとも」 「色が濃いからもっと味もくどいのかと思った」立石が驚いたように言った。菅原も「そうそう」といちいち相槌を打つ。  副島は「玉子もこんにゃくも美味しいですねえ」とご満悦だ。大倉だけが難しい顔をして食べていた。 「大倉の兄貴は気に入らないっすか?」  菅原は難しい顔をして味噌おでんを睨む大倉に恐る恐る尋ねた。 「いや、うまい」 「だったらなんでそんな顔してるンすか?」 「なんのかくし味を使ってるのかなって」 「は?」 「副島さんも気に入ったみてえだし横浜(あっち)に帰ったら作ってみてえなって。弟と妹にも食わせてやりてえし」 「譲二くんと真理衣ちゃんにはまだ早いと思いますけどねえ。もう少し大人にならないとこの味はわかりませんよ」 「そうっすかねえ」 「むしろお母様の酒の肴に作って差し上げたらいかがですか?」 「あ、ババアはいいっす。それじゃなくても美味いもんばっか食ってるンで」 「お客様と食事にでも行かれるんですか?」副島は首を傾げた。 「いや、遠山のお袋さんからいつも差し入れ貰ってて。調子に乗って食った挙句に『太った太った』ってうるさいんで」  そうですか、副島はそう答えた。そして思い出したように大倉に尋ねた。「そういえば遠山さんはカラオケとかで歌ったりするんでしょうか?」 「ああ、カラオケには一緒に行ったことはないんですけど、こないだ柘植の親父さんが真理衣と一緒にEarth, Wind & Fireの〈September〉を歌って踊ってたら、『そこは〈Fantasy〉にすべきだろ!』って揉めてましたね。結局は譲二に〈Fantasy〉を歌ってましたけど」 「Earth, Wind & Fire……」 「──副島さん、玉子ぐちゃぐちゃになってます」  これは失敬、副島は引き攣った笑顔で菅原に返していた。  橋下は何度も箸が突き立てられた玉子を見て、今の話は絶対に早川には聞かせられないと思った。負けず嫌いが二人になるのは面倒だ。どうして二人とも自分の得意分野で遠山に挑んで、勝手に負けた気分で帰ってくるのか。橋下には分かりかねた。
/296ページ

最初のコメントを投稿しよう!

885人が本棚に入れています
本棚に追加