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「そ、そう言えば今週もまた金曜の夜は銀座に行くんすか?」不穏な気配を察知した大倉が話題を変えた。
「ええ、行きますよ。予定に入れておいて下さい」
銀座? と立石と菅原は首を傾げた。
「銀座に何しに行くンすか?」菅原はあまり考えずにふと口に出した。大事な仕事の話だったらどうするんだ。橋下は少しやきもきした。
「──とある店のNo. 1を落としにね」副島はそう言うと不敵に笑った。橋下は少し驚いた。副島はそういうことに興味がないと思っていた。
「副島さんがそこまでってことはすげえ美人なんですか?」立石も乗っかってきた。
「ああ、すげえ美人だ」大倉が先に答えてしまった。「スタイルもいいし、そのへんの女優よりはめちゃくちゃ綺麗なオンナだ」
へー、と立石と菅原は何故か憧れの眼差しで副島を見た。
「やっぱすげえな」
「さすがだ」二人は口々に副島を称賛した。
「やっぱ副島さんは綺麗系が好きなんすか?」
「綺麗系? ああ、どうでもいいですね」副島はさして興味もなさそうに答えた。
「じゃ、じゃあ運命の女って感じっすか?」
「は?」副島は片眉を上げた。
うん? と皆なにかおかしなことを言っただろうかと首を傾げた。
「そのオンナなんて興味ないですよ。ただ接待で来てる総務省の役人が馬鹿みたいに入れ込んでるんで、ちょっと揶揄ってやろうと思って。他人のカネで飲みに来てるくせに身の程を弁えろって話です。ああ、でもそのオンナを使ってお役人の弱みを握るってのもアリですかねえ」副島はそう言ってまたふふと笑った。
よかった。副島は通常運転だった。橋下はホッとしたが、他の三人はしょっぱい顔をしていた。
副島はホテルに戻ると「先に風呂を使ってもいいか」と尋ねてきた。橋下は頷いた。どのみち今から喫煙所に行くのでさして問題はなかった。部屋で煙草が吸えないのは今のご時世仕方ないのかもしれない。
橋下がダラダラと煙草を三本吸い終えて部屋に戻ると、ちょうど副島がバスルームから出て来た。副島は長風呂のイメージだったので、少し驚いた。しかも副島はホテルに備え付けの丈の長い部屋着を着ていた。専用のバスローブでも持って来てるのかと思っていた。自分はどうやら副島に何か思い込みのようなイメージを持っているのかもしれないと橋下は思った。
「ちょっと菅原に用事があるので隣に行って来ます。先に寝てて下さい」
副島はそう言うと鞄を抱えて部屋から出ていこうとした。
「いや、副島さん。部屋着で廊下に出るんですか?」橋下は慌てて声をかけた。
「隣ですよ? 問題ないでしょう?」そう答えるとさっさと出て行ってしまった。
そこは気にしないのかと橋下は頭を掻いた。
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