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episode 2 名古屋へGO 4
「──誰も出入りしないっすねえ」菅原はハンドルに両肘を着いて、廃ビルを眺めながらそう呟いた。
「まだ早えんだろ」
「そうですけどお。昨日も出入りしてないみてえだったし、ちょっとどうなんかなあって」
「どうなんかなあって何だ?」
「なにか仕込むンなら一人二人出入りしててもおかしくなさそうなのに、昨日からそんな雰囲気が全然ないし。大勢で乗り込むってのもアリっちゃアリなんすけど、そんなことしたらここじゃ目立って仕方ねえっていうか」
確かに周りに何もないが、歩いて五分も行けば住宅が立ち並ぶ。そんなところに連れ立ってやってきたら、それだけで通報されるかもしれない。
「夜中に動いたかもしれねえだろ。夜中までは見てねえし」
「それもそうなんですけどお」菅原はそう言って、夜中に動くかなあと小さく呟いた。
「──それは私もそう思いますねえ」座席を倒して目を閉じていたはずの副島が口を開いた。「指揮命令系統が破綻しているところです。誰かが綿密な計画をたててるとも思えないんですよね。だから夜中に見張ってるのは無駄だなと思ったのでしなかったわけですし」
橋下はそれを聞いて片眉を上げた。副島はそんなことまで考えていたというのか?
「だから動くとしても当日だと踏んだんですけどね。もしかしたら思った以上に〈ノリ〉で動く集団かもしれません」
「ノリ?」
「ええ。その時の気分次第ってことですよ。この廃ビル以外で奴らが好んで集まりそうな場所は調べてますか?」
「ああ。二、三は」
「それは重畳。急に場所を変える可能性もありますから。それもあって〈鳴門組〉を見張らせてたんでしょう?」
副島はそう言って橋下に目を向けて、ニヤリと笑った。橋下はそんな話は副島にはしてなかった。だがそれもお見通しだったらしい。何となく面白くなくて橋下はメールを打つためにスマホを取り出した。
事態は思ったよりも早く動いた。それは〈鳴門組〉の連中が時間よりもだいぶ早く事務所を出たところだった。急に複数台の車がやって来て、車に乗り込む前に取り囲んで攫ったのだという。
『アイツら頭おかしいっすよ!』電話で立石は叫んだ。「いきなりトランクに詰めるとかおかしいっしょ!」
「いいから落ち着け。絶対にその車を見失うな。分かったな」橋下は低い声で唸った。まともな取引きの出来る相手ではないことは分かっていたが、ブツだけじゃなく人を攫って行く意味が分からない。小さな個人の組ならいざ知らず〈鳴門組〉の大きさならいなくなったことにも気がつくはずだし、そもそも〈鳴門組〉には大きな後ろ盾がある。報復される可能性がなくなるわけじゃない。
『──絶対に見失いません』大倉の声が聞こえた。
「尾行もバレねえようにしろ」
『分かってます』
そう言って電話は切れた。
「やはりそうきましたか」副島はそう言ってスマホを眺めていた。「では私たちも向かいましょうか」
「いや、まだどこに行くか分からねえし」しかも名古屋に土地勘はない。橋下がそう言いかけると、副島はスマホの画面を向けた。
「大倉には現在地が細かくわかるアプリを入れて貰いました。ちなみの今はここです。港方面に向かってます。で、この辺りの奴らが行きそうな場所はどこですか?」
「藤前の新川近くにある使われてない倉庫だ」
「では私たちは別ルートでそこに向かいましょう。橋下、ナビに入力してください」
橋下は慌ててナビに入力した。
「アルファードは目立ちます。向こうも警戒してるでしょうからね。菅原、いつも通りでいい。無理に急ぐな」
副島は短く指示を出した。菅原は頷いて車を発進させた。
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