episode 2 名古屋へGO 4

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 副島の予測は当たっていた。それっぽい車が倉庫のほうに向かっていた。こちらはあまり近づかないほうがいいと判断した。  大倉と立石は車を停めて倉庫の裏手から様子を見てきたらしい。一旦、合流すると連絡が来た。 「──とんでもないっすね」大倉は戻るとすぐにそう口を開いた。立石の顔は強張っている。 「パーティーかなんかやってるのかみたいな騒ぎです」  どうやら集まった奴らは酒を飲み、大音量で音楽を流し、クスリでラリって大騒ぎしていた。トランクに詰められた連中は、引き摺り出されて倉庫の中に連れて行かれたらしい。中で何をされてるかなんて考えなくても分かることだった。 「警察(むこう)には?」副島が橋下に尋ねた。 「連絡は入れた。だが時間よりまだ早いからすぐには動けないだろうし、それに場所が変わってる。恐らく到着までに時間がかかるだろう」 「ヤバいですね、あまり時間はなさそうだって思いましたけど」大倉は硬い声でそう言った。確かにそれはそうだろう。クスリでラリってる奴に理性なんて働かない。やり過ぎるのが目に見えている。 「──っていうのが向こうからのオファーですよね?」 「ああ。多少の怪我には目を瞑るだろうが、ってのが向こうの条件だ」 「だったら待ってる場合じゃないですね」副島は考え込み始めた。 「向こうは三十人はいました。けど建物の中に何人いるかまでは分からないですね」  向こうは三十人以上にこちらは五人。しかも人質も向こうに取られている。まともにやりあえば厳しい闘いになるだろう。 「──その春日って奴を奪還すればいいだけですよね?」副島がなにか思いついたようにそう言った。 「ああ。それ以外は頼まれてない」 「警察(むこう)が来るまで時間稼ぎが出来ればいいわけですね。奴らを潰せとか捕らえろとは言われていない──だったら奴らをそこから追い出せばいいだけです」  なるほど。橋下は片眉をあげた。  倉庫の裏手までには人はいないと大倉は説明した。「なにか取引きしようって感じじゃないっすね。全然緊張感とかないです。ただ集まって騒いでるって感じで。だから裏からだったら建物内に侵入できるんじゃないですかね」 「入れそうな扉とかは?」 「いや。それはなかったっす」 「──窓」さっきからスマホを眺めていた菅原がそう呟いた。 「倉庫の裏側まではストリートビューでは見られねえっすけど、隣の倉庫を見る限りじゃ窓があるみてえなんで」  そう言ってスマホの倉庫の画像を向けた。倉庫の二階の窓なんてどうやって入るというんだ? 「ここに雨どいがあるじゃないすか。行ってみねえと分かんないすけど、雨どいがあれば俺がそこを登っていきます。そんで窓から入ります。運が良ければたぶん中二階があるはずっす」 「俺らはどうすンだ。流石に雨どいは登れねえぞ」 「ロープなら登れますよね?」 ロープ? そんなのあったか? 「なんのためにアルファードで来たと思ってるんですか? 道具ならひと通り揃ってますよ」副島が顎でしゃくると、立石が立ち上がって最後部からクーラーボックスを引っ張り出した。そしてそれを開けると登山用のロープとカラビナも入っていた。 「まあ、ちょっとした登山になりますけど」  まさか名古屋に来て登山をすることになるとは思ってもみなかった。橋下の眉間に深い皺が刻まれた。
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