episode 2 名古屋へGO 4

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**  ヤリス一台に全員乗り込んで倉庫の裏に停めた。必要なものは全て各自が持っている。あとは計画通りに進めるだけだ。ただ情報が少ない。咄嗟の判断が必要になる。そう考えると橋下も緊張してきた。だがその緊張を感じると、不思議と頭の奥が冷えてくる。いつものことだ。橋下はこの緊張感は嫌いではなかった。  音楽が漏れ聞こえてくる。闇に紛れて倉庫裏にたどり着いた。大倉が言っていた通り、裏には扉は付いてはいなかった。もしかしたら中にいる連中はそれを知っているのかもしれない。だから倉庫裏には見張りを置かないのかもしれない。そもそも見張りを置くなんてことすら考えていないのかもしれないが。  菅原の読みどおり雨どいを登っていけば窓には到達しそうだった。菅原はそこから鍵を壊して窓を開けるという作業が任されていた。橋下と立石は菅原が落ちて来た時のために下で待機している。副島と大倉は銃を手に辺りを警戒していた。やたらに発砲したくはないが、大人数を相手にそうも言ってはいられない。  菅原は器用に雨どいを登っていった。古い倉庫だが、運よく思ったより腐食していなかったようだ。だが窓をこじ開けるのは難航していた。うまい具合に鍵まで手が届かない。橋下は最悪はぶち壊せと伝えていた。恐らく音楽と薬物で音にはそこまで気をつかってはいないだろう。菅原は雨どいと身体をロープで繋いでいる。多少無理しても落ちて大怪我する可能性は少ないと判断したのだろう、雨どいから手を離し、窓の縁に両手をかけた。窓をぶち破れ。橋下はそう思ったが叫ぶわけにもいかない。あとは菅原に任せるしかないのだ。菅原は何度か手袋を嵌めた手で何度か窓を叩いた。そして何かを確認すると、いきなり窓枠を揺らし始めた。 「……あのバカ」立石は小声で呟いた。どうやらハラハラしながら見ているようだ。確かに何度もバランスを失いかけている。橋下はジッと菅原を見つめた。  何度か窓を揺らすと菅原は満足そうに頷き、そっと窓を開けて入って行った。中に入っていけたということはそこにスペースがあるということなのだろう。もしかしたら中二階のある倉庫なのかもしれない。菅原はしばらくするとロープを垂らしてきた。準備完了ということだ。  立石が先に登ることになっている。立石はロープを頼りに雨どいに足をかけて登って行った。窓が開いているおかげもあって難なく倉庫の中に消えて行った。そして立石が改めて顔を出す。次は橋下の番だ。橋下がロープを引くと、意外としっかりした感触が得られた。  どうしてこんなことを。そんなことが一瞬頭を掠めたが、すぐに切り替える。そんなことを言っても始まらないのだ。橋下は雨どいに足をかけた。  そこまで軽々とはいかなかったが、思ったよりは早く登っていくことが出来た。窓に手をかけて中に入る。やはり中二階がある倉庫だった。ロープを自分の身体と鉄柱に巻きつけた菅原が手すりにしがみついて座っていた。なるほど、それで思ったよりしっかりしていたわけだ。  橋下はすぐに上着の内ポケットから銃を取り出した。上から外を狙う。その姿を見て副島が登ってきた。荒事が得意とは聞いていなかったが、それでも難なく登ってきた。その後に大倉が続いた。
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