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橋下達の入ってきた窓は倉庫の奥側だ。奥には照明がほとんど付いていなかった。点けないのか点かないのかは分からない。だが明るくなくて助かった。明かりが点いている部分がよく見えた。
中には三十人以上はいるだろうか。多くは冷蔵庫のようなものの上に座っていた。ここは昔はリサイクル家電か何かの倉庫だったのかもしれない。その向かい側に二人が両手を縛られ吊るされていた。そしてその足元には手足を拘束されて転がされているのが三人いた。春日を探す。春日は吊るされているうちの一人だった。
連中の年齢はだいぶ若そうだった。リーダーらしき人間もいない。ちらほらと女の姿もあった。一緒に酒を飲んで騒いでいる。大倉の報告どおりただのパーティーのようだった。
甘いような青臭いような独特の匂いがしていた。彼らが吸っているのはどうやら煙草ではないらしい。しかもそこかしこで何か手を差し出していて、女がピルケースから何かを取り出し掌に乗せていた。MDMAか。
音楽もうるさいくらいだったが、時折聞こえる奇声もかなり不快だった。どうやら男が女に抱きついたりキスしたりするとテンションが上がるようだ。
とてもヤクザを拉致してきたとは思えない状況だ。だがテンションの上がった野郎どもは、縛られて転がされてる連中を蹴り回し始めた。それが楽しくて仕方ないようだった。
「──死んじまいますよ」立石が小声で囁いた。
「分かってる」橋下はそう答えて、チラリと副島を見た。自分を始め他の三人もこの状況を見て眉を顰めている。だが副島は無表情で眺めているだけだった。
キャーと声が聞こえた。それは恐れではなく歓喜の叫び声だった。その中の一人が吊られた男二人の腹をを千枚通しのようなものでブスブスと刺し始めたのだ。
「こういうのネットで観た!」そう言って周りは騒ぎ出した。
「おい。動画撮ってるか?」「スナッフビデオで高値で売ろうぜ」と言って笑い合っている。
「殺したらやばくねえ?」と一人が言うと、コイツらどうせ反社だぜと誰かが言い始めた。
「だったら殺っちまっても罪にはならねえか」
「ならないならない。だって反社だよ」
「反社を殺したって罪にならくねえ? だってコイツら悪者だろ」
「だったらコイツら殺した俺らは正義の味方だなあ」そう言うと周りがドッと沸いた。やっちまえやっちまえとコールが起きた。刺してる男はその声に高揚して、調子に乗って何度も腹を刺した。
春日も隣の男もうめき声しかあげなかった。
「──あの野郎」大倉が低く唸った。「何が正義の味方だ。調子に乗ってんじゃねえぞ」そう言って銃の撃鉄を起こした。立石も菅原も目つきが変わっていた。そういう橋下も気がついたら奥歯を噛み締めていた。
「──そんな熱くなった頭で引き金引くんじゃねえ」低い地を這うような声が聞こえた。「任務を成功させることだけ考えろ。他の感情はいらねえ」
それは無表情のままの副島だった。階下の状況をジッと見つめたままだった。
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