episode 2 名古屋へGO 4

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「大きな照明が六つ、その他の照明は十八。大きな照明は橋下、一発ずつで落とせるか?」 「ああ」 「じゃあ残りは立石と大倉で六本ずつ。できるだけ一発で落とせ。ぐずぐずしてると気づかれる。菅原、IEDはすぐ起動できるか?」 「はい」 「照明が落ちたらすぐに奴らが座ってるほうに向かって投げろ。昨日説明したとおりにできるだけ遠くに高さをとって放れ。できるな?」 「はい」 「橋下と立石は照明が落ちたら、そこの階段を降りて春日の救出にむかえ。大倉は二人を援護しろ」 「はい」 「失敗は許されない。肝に銘じろ」  副島はそう言って配置を指示した。立石と大倉、真ん中に橋下、奴らに近い方に副島が並んだ。菅原は副島のそばに控えている。 「橋下のタイミングで始める」と副島が言った。橋下は狙いを定めた。一発も外せない。それを副島も分かっているはずだ。分かってて任せたわけだ。期待に応えねえとな。照準が定まった。橋下は引き金を引いた。  橋下の両側から一斉に音が聞こえた。六発。橋下は外すことなく全てを破壊した。そしてホッと息をつき副島を見た。副島はすでに終えていて、別の銃を構えていた。大倉は二発、立石は四発外したが、それでもすぐに照明全てが破壊された。階下では真っ暗になってやっと騒ぐ声が大きくなっていた。 「停電?」「いまなんか音がしなかったか?」「え? そういう曲じゃねえの!?」  副島の用意ができたらしい。菅原に合図を送る。菅原は頷いた。大倉と立石は橋下と共に階段のそばまできていた。だがこんなに暗くて狙えるものなのだろうか。橋下の足がふと止まった。振り返って二人を見た。  菅原が投げたものは考えていたよりも遠くに飛んでいった。そして放物線を描いて落ちてきた。その瞬間轟音が響いた。それは眩しい光を放った。気がつくと屋根部分に火がつき燃え広がっていた。どうやら屋根部分は燃えやすい素材だったらしい。  今度は恐怖の叫び声がそこかしこで聞こえ始めた。外へ出ようと扉へ殺到していた。だがパニックになって指示系統の破綻した集団は、扉すらうまく開けられないようだった。  大倉は春日ともう一人が吊られていた鎖に向かって銃を向けた。おおもとの鎖が切れて、力が抜けた状態で二人は崩れ落ちた。橋下はなんとか春日を受け止めることが出来た。 「おい、まだ死ぬんじゃねえぞ」春日の耳元で橋下は囁いた。 「え?」春日はワンテンポ遅れて、顔を上げた。 「木崎から頼まれた」  春日の瞳が大きく開かれた。遠くからパトカーのサイレンの音がした。きっと爆発音が聞こえたのだろう。そっとやって来るから急いで駆けつけるへ方針転換したに違いない。 「悪いがあんたを警察に引き渡す。そのほうがちゃんと治療してくれるはずだ」 「それで、構わない」春日はそのまま膝をついた。「……助かった」そう言って安心したように目を閉じた。 すでにサイレンの音は建物のすぐ前から聞こえた。力ずくで扉を開けるだろう。 「このまま置いていく。構わないな?」 「ああ……もう大丈夫だ」  春日のその答えを聞くと橋下は顔を上げて、大倉と立石を見た。二人は頷いた。もう長居は無用だ。すぐに階段を登った。  ロープを辿って降りるだけだ。橋下と菅原はロープをしっかりと掴んだ。三人が先に降りる。大倉、副島が先に降りた。 「先でいいんすか?」立石が橋下に言った。 「いいから行け。時間がない」橋下は早口で答えた。立石はすぐに降りて行った。 「──菅原。俺が先に降りる」 「大丈夫っす」  橋下は立石が下まで降りたのを確認するとロープを掴んで窓に足をかけた。下まで着くと、橋下は窓を見上げた。仮に途中でロープが切れたとしても、橋下と立石で菅原を受け止めるつもりだ。  菅原が降りて来るまで時間がかかった。橋下は少しやきもきした。何をしているんだ?  声をかけようとした矢先、菅原が姿を現した。窓枠に足をかけた。菅原が降り始めてすぐにロープが緩んだ。あっと声を上げる間もなく、菅原が落ちて来た。橋下の身体が咄嗟に動いた。 「──アイタタ。あ、橋下さん大丈夫っすか?」 「……早く退け」  すんませんと菅原が飛び起きた。橋下のそばにはロープが落ちてきていた。立石はそれを素早く回収した。 「立てます?」 「うるせえ。さっさと車に戻るぞ」お互いにどうやらどこも怪我はなかったらしい。三人は車まで急いだ。  車は警察車両がやって来た反対側の細い路地を抜けて走った。アルファードを停めてある駐車場まで来ると、菅原と副島と橋下はそちらに乗り換えた。幹線道路には倉庫に向かう消防車や救急車両が何台も通っている。幹線道路を使わずにできるだけ遠くに行くほうが賢明だろう。
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