885人が本棚に入れています
本棚に追加
/296ページ
episode 2 名古屋へGO 5
**
ラジオから昨夜の大捕物のニュースが流れた。どうやら死人は出ていないようだった。命に別状はないが重傷者は複数人いると報道されていた。
これで木崎との約束は果たされた。成功と言っていいだろう。橋下は安堵して目を閉じた。
しばらくすると何故かうっすらと音楽が聞こえた。
「これ、カッコいいっしょ?」
「うわ! すげえな。これ踊りてえ」
うん? 橋下は薄く目を開いた。案の定、立石と菅原がそこにいた。
「──おい、てめえら。なんでそこに居るんだ?」
橋下の声で二人は振り返った。
「なんでてめえらが運転してねえんだ?」
「なんでって……」
「副島さんが運転してえって言うから」二人はそう答えると運転席の副島を恨めしげに見つめた。
「ああ、いいんです。早く戻って風呂に入りたいんで」副島はなんの問題もないように答えた。
「いや、副島さんだって疲れてるでしょうが」
「チンタラ走られて苛々するよりよっぽどいいです。というか飛ばしますよ?」そう言ってアクセルを踏み込んだ。
あまり飛ばされると何だか眠ってもいられない。橋下は小さくため息をついた。
「で、お前らはさっきから何をしてるンだ?」スマホを見ながらコソコソと何かを話していた立石と菅原に尋ねた。
「なんかカッコいい〈猫ひた体操〉がアップされてたンで」
「覚えようかなって」
昨夜にあんなことがあったというのに、何を言ってるんだ。体力あり過ぎだろ。
「そんなの覚えてどうするンだよ」
「踊るンすよ」なあ、と二人は顔を見合わせた。
「──おい、いま〈猫ひた体操〉って言ったか?」助手席の大倉が振り返ってそう言った。二人は「はい」と返事をした。すると大倉はスマホの画面を二人に向けた。
「弟と妹が幼稚園で踊ったヤツ」
立石と菅原は大倉からスマホを受け取ると、画面に食らい付くように見入った。
「──うっそ」
「めちゃくちゃ可愛くないすか?」
「だろ?」大倉は何故か得意気にそう答えた。二人は「へー」とか「ほー」とか言いながらそれを見ていた。
「弟さんも可愛いですけど、妹さんめっちゃ可愛くないですか? 大きくなったらすげえモテそう」
「「は?」」
不穏な声が重なって聞こえた。
「冗談じゃねえぞ。俺の妹に手ェなんか出す奴はタダじゃおかねえわ」
「真理衣ちゃんに何かあったら私も許しませんねえ」
どうして二人は昨夜並みに殺気が出てるンだ?
「い、いや、俺はモテそうだなって言っただけで。彼氏がどうこうとか言ってねえっていうか」立石は慌てて言った。
「「彼氏!?」」
「いや」
「彼氏なんて100万年早えわ」
「そうですねえ。まずはどれだけの技量のある野郎なのかを見極めないといけないですねえ。私以上の稼ぎじゃないとちょっと認められないっていうか」
副島以上の稼ぎっていったい幾らになるんだ。橋下は騒ぐ二人を呆れて見つめていた。
というか大倉と副島どころかまずは親父の許可が必要だぞ? と橋下は思った。口には出さなかったけれど。
「──あっ!」
突然菅原が声を上げた。今度はどうした!?
「あの、すんません。海老名のSAに寄ってもらってもいいすか?」
最初のコメントを投稿しよう!