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「はい。行ったことないんであくまで噂ですけど、俺の地元の友達の友達が〈clubD〉に行ってぼったくられたって。確かに可愛い女の子はいることはいるらしいンすけど、座って一杯飲んだだけで六万だって」  六万。確かに高いがぼったくりと呼べるかどうかは微妙なラインだ。 「それは立石に言ったのか?」 「言いましたよ! でも座って一杯飲んで六万なら払える。それに可愛い子ならそれでもいいからって」  話の感じだと一杯どころか何杯も飲んだようだし、指名もしている。一体どれくらい払ったんだ? 「結局二人で十万はかからなかったらしいっす。だからぼったくりじゃなかったって」  座って一杯で六万と恐らくラストまでいて散々飲んで二人で十万。一体どんな計算になってるンだ?  橋下はどちらの話が本当なのか気になった。 「野本はなんて?」 「野本さんは高田さんからの紹介って言ったから安くして貰えたみたいです。基本あの人は飲めないから、女の子に散々飲ませて十万って言ってましたね。それでも満足してたみたいです。参考にはならないですけど」  立石なら分からなくもないが、野本の稼ぎで十万は安い金額ではないだろう。 「野本はいつもそんなにカネ使ってるのか?」  そう尋ねると菅原は眉間に皺を寄せた。「あくまで噂なんすけど」そう言って誰もいないのに声を潜めた。 「野本さんは高田さんから借金してるって話があるっす」  下っ端同士でカネの貸借りか。よくある話だが、察するにどうやら可愛い金額ではなさそうだ。 「立石は知ってるのか?」 「噂なんで知ってるか知らないかまでは確認してないっす。ただ野本さんは立石さんにはめっちゃ愛想がいいんで、もしかしたら知らねえかもです」  菅原は愛想がいいという表現をしたが、それは恐らくおべっかを使ってるということだろう。確かに立石のあの連中を仕切るような役割をしている。だがだからといって、決して胡座をかいていい位置とはいえない。そういう気持ちが立石にもどこかにあったというところを突かれたのだろう。 「──そういやテメエはさっきから高田さんだの野本さんだの〈さん付け〉してっけど、テメエのが兄貴だろうが」 「そうなんすけどお」菅原は口を尖らせた。「でも歳上だし、学歴だって上だし」 「高卒か高校中退の差だろうが」 「高校中退は中卒なんですってば。それに高田さんは大卒だって」 「大卒?」そんなことは初めて聞いた。「高田がそう言ってたのか?」 「高田さんからは聞いたことねえっすけど、相模原の友達が言ってました。半グレ時代はそう言ってたって」  橋下は机の引き出しを開けてファイルを取り出した。この組に入ってきた者の身上書のようなものを個人的に作っている。それもまたどこに提出するわけでもない自分専用のものだ。早川もそれを重宝していた。  高田を探す。だがそんなことは書かれていなかった。相模原の半グレ時代のことも短期間いただけと聞いていた。だが菅原の友達にまで噂が広がってるとしたら、それなりの期間は所属していたということになる。確かに高田のあの上を上とも思わない態度を見ていると、大卒で半グレ期間が長かったのなら納得できる。となると──こちらに嘘の報告をしていたということだ。なんのために?  橋下の頭痛はすっかり治まっていて、おまけに頭の中はクリアになってきていた。
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