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一時間も過ぎると菅原が音をあげ始めた。
「頭あっついんで冷えピタ貼ってもいいすか?」そう言って副島の目を点にさせていた。
副島は最後に菅原に宿題を出していた。副島の株の一部を菅原に託して様子を観察させるらしい。
「毎日ちゃんと数字を確認してください。習慣になるように毎日同じ時間に見るようにするといいですよ」
「はいッ! 毎朝ちゃんと観察してグラフを書きます!」
朝顔の観察日記かよ。
すると早川が菅原を呼んだ。
「高田の彼女ってのはいまだにその店で働いてンのか?」
「辞めたっていうのは聞いてないっす」
「どんなオンナだ?」
どんなって、菅原はそう呟いて考え込み始めた。
「髪が真っ直ぐですげえ長いって。それからすげえ美人ですげえスタイルがいいって」
正直〈すげえ〉しか入ってこないのだが。もう少しうまいこと説明できないものか。橋下は焦れた。だが早川は「ああ、分かった」と答えていた。あの説明で理解できるほうがすごい。
「今日はもういいからあがれ。他の仕事を頼みたい」
早川にそう言われて菅原が目を輝かせた。「なんすか!?」
早川は高田の半グレ時代について調べてくるように指示した。どこに所属していたとか何をしていたとかそういうことだった。
「できればどこの大学を出たとか分かるとありがたい。できるだけ細かくな。それと副島と一緒に行け」
「はい?」菅原は間抜けな声をあげた。
「それから今日は家には帰らねえで他所に泊まったほうがいいな。オンナの家とか」
「そういういい感じのオンナとかいねえっす」
「じゃあウチに泊まったらいい」副島がサラッと言った。
「まあ、副島の家なら大丈夫だろう。それでいいな?」
「俺はいいっすけど。なんかやべえ感じなんすか?」
「最悪の場合を想定して動け。親父に言われたろ? そうしてるだけだ」
「はあ」菅原は気の抜けたような声を出した。
「副島。菅原の足になってもらっていいか?」
「は!?」
「構いませんよ」
「いいいいいいや。構いますって!」
「じゃあ行きましょうか、菅原サン」副島はそう嬉しそうに言った。菅原は「いや、駄目ですって!」とか叫びながら出て行った。
「──何かヤバそうなことでも?」橋下は早川にそう尋ねた。
「大倉から返信があった。貸してる総額が一千万近い。しかもどうやらかなり羽振りがいいらしくて、後から入った奴らにかなり奢ってるそうだ」
「どこからそんなカネが?」橋下は自然に眉間に皺が寄るのを感じた。
「半グレの連中といまだに繋がって何かしらやってるか、もしくは──。いずれにせよ、高田が抜けてるのか抜けてないのかによるな」
「その半グレ集団から抜けてるとしたら理由が気になりますね」
「まあな。その理由によっては最悪なこともあるだろう」
早川はチラリと橋下を見た。
「他の組から送り込まれてる可能性もある」
橋下は何故か〈SPY×FAMILY〉を思い出した。あながち役に立たないわけではないらしい。
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