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 龍神会事務局長 橋下誠の朝は早い。八時半には事務所に顔を出す。すぐに前日にまとめておいたゴミ出しをする。昨今は前日の夜に出すとクレームがくる。それでなくとも最近は組事務所への風当たりが強い。なるべく揉め事は起こしたくはないのだ。  事務所は鍵がかかっていた。それで今日の担当は立石(たていし)ではなく、菅原(すがわら)であったことを思い出す。大倉が事務所の鍵を開けてゴミ出しが出来るようになった頃、早川が引き上げていった。恐らく立石もそろそろ重要な仕事を任される頃だろう。  どうせ仕事を任すことが出来るようになると、上に掻っ攫われていくんだろうな。橋下はすでに諦めの境地にいた。そういう意味では菅原が引き上げられるようになるには、まだしばらくかかるだろう。  その後すぐに掃除に取りかかる。早川はやや大雑把だが、海藤は意外とそういうところに厳しい。もっと面倒なのが本部長だ。あまり事務所には顔を出さないがやって来るとなると厄介で、埃を指で確かめるという姑みたいなことをする。万が一汚かった場合には大騒ぎになる。早川以外が全員掃除に駆り出される。一日の予定が台無しになるのだ。その過去の経験から掃除はいつもちゃんとしておいたほうが、いざという時にラクということを学んだ。  各机を拭き終わりそうな頃、音を立てて扉が開いて菅原が飛び込んで来た。 「す、すんませんッ! 寝坊しました!」  菅原のいいところはダラダラと言い訳をしないところだ。慌てて橋下の手伝いに入る。 「こっちはいいから外を履いとけ」橋下はそう指示した。菅原は「うっす」と返事をして外に飛び出して行った。菅原はまだ若く見た目もチャラいが、掃除は教えたとおりキッチリやる。そうなるまでには鉄槌付きで三ヶ月かかったが。 二人がかりの掃除は小一時間続いた。  掃除を終えると橋下はやっと椅子に座った。菅原にコーヒーを淹れるようにと言って、新聞を広げた。一応経済面と社会面に目を通す。仕事柄必要だからだ。 「ミルクと砂糖はどうします?」 「頼む」 「砂糖は一本でいいすか?」 「二本」  最近忙しいせいか疲れが抜けない。疲れた時にはどうしても甘いものが欲しくなる。  菅原はミルクと砂糖を二本付けてコーヒーを運んで来た。一応礼は言う。  橋下は砂糖の封を切りながらふと思う。どうせ入れるって分かってるなら、入れたものを持ってきてもいいはずだ。封を切る手間が省ける。そういう意味ではやはり木崎は使える男なのかもしれない。  マジでウチにお茶要員として来ねえかな。ふと頭をよぎった。
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