妖精と躍る

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 静けさの戻った教室に、鉱石を木箱に置くコト、コトという音が響く。  彼女の。  卒業。  たぶん。  それが。  唯一の。  解法。  ため息をつき、積まれた本に目を向けたライグの眉が、片方だけ上がった。一冊、見慣れない色の背表紙が混じっている。  本を手に廊下へ走り出る。モーナを探したが、すでに気配はない。  ――帰りがけでいいか。  彼は教卓に戻り、褪せた紫色の絹の表紙に視線を落とした。  ――呪術大全:ディアドラ・パルム著。  呪術学。  二十四個のルーン文字からいくつかを組み合わせ、呪文を「探す」。組み合わせの数は、数十兆通り。頭の奥に感じる「ピリピリ」の強さを頼りに、呪術師たちは文字を組んでいく。  見つけた呪文はその人だけのもの。他の人間が唱えても何も起こらない。一生かかっても見つけられるのは十数個が普通だが、大呪術師ディアドラは三十個見つけた。大記録。  ――ベリンダは呪術学に戻るだろうか。  本をさすったライグの手を、突然小さな人影が下からひゅっとすり抜けた。「あーら! 若い男!」 「うああああ」
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