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六本木のルーセントホテルから麻布へ向かって
キム・ユンヒと茂蔵は小妹と蓮華と桃華に追われ
長い坂を駆け下りていた。
そして体の重い茂蔵に追いついたのは有栖川公園の前だった。
「茂蔵!」
蓮華と桃華は茂蔵を挟み
小妹はキム・ユンヒを追った。
「お前が仁木さんと三雲さんに聞いた。豆腐屋」
「ふん、俺のあだ名を知っても何の役に立たんぞ。俺は強い!」
茂蔵はキム・ユンヒを逃がすために
有栖川公園に入り二人を引きつけ、
まるで昼間のように木の間をすり抜けて
池の前の広場に出た。
「ここなら邪魔されない、さあ来い」
蓮華と桃華は交互に特殊警棒で茂蔵を殴りつけると
それをいとも簡単に腕で受けていた。
~~~~~
「おい、三雲。茂蔵の得意技ってなんだ」
小妹を応援するために後を追っていた仁木が三雲に言った。
「あの鋼鉄のような体だろう」
「いや、小針家の技だ」
「確かあそこの爺さんは花火職人!」
「小妹、蓮華、桃華。茂蔵の伝承忍法は火遁の術。
爆発するぞ!」
仁木の声が聞こえた時、茂蔵は蓮華と桃華の頭を両手でつかんで
振り回した。
「ドーン」
閑静な住宅地に火柱と共に爆発音が鳴った。
「しまった、間に合わなかった・・・」
仁木と三雲は有栖川公園で燃え上がる炎を見て
茫然と立ち尽くした。
~~~~~
先を行くキム・ユンヒは有栖川公園の脇を出て外苑西通りを
左に曲がり天現台の方へ向かった。
小妹がユンヒに近づくたびにユンヒは振り返って
ピストルを撃ち小妹を拒んだ。
「いったい、どこに向かっているんだ。キム・ユンヒのやつ」
~~~~~
「雪さん、小妹の現在位置は何処ですか?」
森田に逃げられた亮はキム・ユンヒの行方を知りたかった。
「衛星カメラで追跡しています。小妹は
キム・ユンヒを追って広尾へ向かっています」
「了解です。近くにある大使館か領事館を教えてください」
「ドイツ、フランス、パキスタン、フィンランド、そしてイランです」
雪は亮の指示でいたる所に大使館が立ち並んでいる
麻布近辺の地図を出して答えた。
「大使館や領事館に逃げ込んだらこちらから手が出せない」
麻布から20km離れた亮は小妹たちを
助ける事ができず苛立っていた。
「亮さん、小妹はイヤフォンマイクを持っていません!」
「小妹、何とかして伝えないと
森田だけじゃなくてキム・ユンヒにまで
逃げられてしまう・・・」
そこに仁木から亮の元に連絡があった。
「亮さん、大変だ!蓮華と桃華が大変な事になった」
「どうしたんですか?」
「茂蔵を有栖川公園に追い詰めた蓮華と桃華が
茂蔵と一緒に爆発しました」
仁木と三雲の前に爆発で燃えた木々の
消火の為に消防隊が向かっていた。
「仁木さん、それで彼女たちは?」
亮は突然の話に頭の血管が破裂しそうなほど心拍数が上がり
震えた声で仁木に聞いた。
「分かりません、警察と消防が来る前に
現場を探していますが肉片すら見つかりません」
「分かりました。あの二人が簡単に死ぬとは思いません
引き続き捜索してください・・・お願いします」
亮は自分の家族、連華と桃華の無事を願った。
~~~~~
その時キム・ユンヒは小妹の前から忽然と消えた。
「えっ!」
小妹が目の前を流れていた川脇の
ガードレールから下を見下ろすと
川底にキム・ユンヒの姿が見えた。
川底から20cmほどの流れしかない古川は
(古川は新宿御苑を水源とする渋谷川が
天現寺橋から古川と名を変え東京湾に流れ込む川である)
キム・ユンヒにとって走るのには問題が無かった。
「くそっ!どこまで逃げるんだ!」
小妹はそう言って3m下の川に飛び降り
川底のキム・ユンヒを追った。
その時川の両側からサーチライトが小妹に当てられ
ガシャガシャと言う金属音がすると
小妹はその音で両岸を見上げた。
そしてそのサーチライトの脇には無数の
サブマシンガンの銃口が無言で小妹に向けられた。
「亮さん、小妹が危ない」
モニターを見ていた雪が声を上げた。
「どうしたんですか?」
「川の中にいる小妹に大勢の人間が銃口を
向けている、あのままじゃ
いくら炭素繊維ウエアを着ていてもショックと痛みで死んじゃう」
「分かりました」
亮はすぐに趙剛に電話を掛けた。
「老師、小妹が危険にさらされています。どうか助けてください」
「たとえ小妹が私の孫と言えどお前の部下だ。
自分で助けなくてはならない」
「どうしたらいいでしょうか?」
「簡単だ、教えた電話番号に電話をして命令すればいい」
「でも、彼らを動かしたら僕の正義は無くなります」
「悪はどんな事をしても改心しない。悪を退治するのも
正義だ。お前は正義を命令するだけだ」
「分かりました」
「さあ、お前がこれからの暗鬼を決めろ」
趙剛は亮に暗鬼の未来をゆだねた。
亮は趙剛の電話を切ると指示された電話番号に電話をした。
その回線は暗鬼たちのイヤフォンにつながった。
「劉亮だ、今小妹を狙っている者を殲滅せよ!」
中国語での命令が下った瞬間
小妹を照らしていたサーチライトが破壊された。
そして、小妹を狙っていた男たちの首に後ろから刃物が突き立てられ
それが一気に引かれると赤い血しぶきが上がった。
上から降ろされた縄梯子で古川の上に登った小妹が
覆面をした男に聞いた。
「亮が命令したの?」
「はい、殲滅せよと」
「亮、やっと決めたのね。暗鬼の未来を・・・キム・ユンヒは?」
「姿を消しました」
「あの連中の後始末をお願い」
「はっ!」
男が立ち去ると小妹は亮に電話を掛けた。
「亮、ごめんキム・ユンヒに逃げられたわ」
「小妹、無事だったんだね。良かった」
「はい、亮が暗鬼を動かしたお蔭よ」
「それが、蓮華と桃華が行方不明だ」
「行方不明?」
「茂蔵を追って有栖川公園に入って爆発が起きた」
「そんな・・・」
小妹は姉妹のように一緒に育った蓮華と桃華の身を案じて
今にも泣き出しそうな顔で有栖川公園に向かって走り出した。
~~~~~
「雪さん、有栖川公園の爆発の様子の映像は撮っていなかったんですか?」
「それが、小妹の方にカメラを動かしてしまったので。済みません」
雪は亮の質問に答えた。
「仕方ありませんよ。雪さん。とにかく周りの防犯カメラの
データから蓮華、桃華を全力で探してください」
蓮華と桃華が爆死したなど思いたくない亮は雪に懇願した。
「了解です、全力を尽くします」
雪と麻実は広尾近辺の防犯カメラのデータ検索を始めた。
亮は森田に逃げられ、さらに蓮華と桃華が
行方不明になった事に気落ちして
飛行場の出口に向かいながら美咲に電話を掛けた。
「美咲さん、森田に逃げられました」
「分かりました。私の方で税関、出国審査を
徹底的に行うように依頼して
何かあったらすぐに身柄確保できるようにしてあります。
そして、写真撮影、指紋採取も本人に
分からないようにやっています」
「それとキム・ユンヒもイラン大使館付近で見失いました」
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