くう、くう、くう。

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くう、くう、くう。

 新型コロナの影響で、行動制限を余儀なくされた人は少なくないだろう。それは、僕の一家も同じだった。従姉妹一家が先日コロナで壊滅し、全員ぶっ倒れて酷い目に遭ったという報告を受けてから母は特に過敏になっている。そのため、緊急事態宣言中はもちろんのこと、感染者数が一定以下にならないければ家族にも行動制限をかけると言い出したのだった。  よその家でもそうだろうが、僕の家も例に漏れず母がすべての中心で回っている。彼女が良いといえば良いし、駄目と言えば駄目。高校生の兄も、中学生の僕も、おっとりした父も。本気で怒ると雷のごとく恐ろしい母に逆らえるはずもなく、彼女の方針に従うしかないのだった。  それは大抵、その方針が間違っていないと感じるからというのもある。  事実彼女の言う通り、感染者数が一定数以下にならなければ外食と旅行禁止!などを徹底した結果、僕達一家は未だに全員がその猛威から逃れている。マスクと手洗いをきちんとやっていたこと、ワクチンをちゃんと打ってきたことも大きいのだろう――なんて言うと一部の人に絡まれそうではあるが。 「そろそろいいんじゃないかしら」  そんなわけで。  ある日ニュースを見ていた母は、ついにリビングで宣言したのだった。 「旅行はともかく……そろそろ外食は解禁にするわ。ただし、ご近所の行ったことのあるレストラン限定ね」 「やった!」 「ひゃっほう!」 「居酒屋まだ駄目かぁ」  喜ぶ僕と兄。ちょっぴり残念そうな父。  母の鶴の一声によって、久しぶりに待ちに待った外食オーケーの許可が出た。食べ盛りの息子ズが喜ぶのは必然だったわけである。
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