人間解禁

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人間解禁

へびは ニョロニョロ くねくね ぼくも くねくね したい 歩いて 森の中 へびと 出会った へびは ニョロニョロ ぼくの方に ぼくも そろりそろり ベビの方に 真正面 へびとぼくは くねくね 互いに 絡み合って くねくね  一本の 太い糸のように 絡まって へびと僕は 一体に なった なんて妄想しているうちに、駅についた。 これから、つまらない仕事が待っている。つまらない、嫌だ、と思っていても、会社に向かうのは習慣になっていた。 会社勤めをするしか才能のない僕。そもそも雇ってくれる会社があるだけで、感謝するべきなのかもしれない。 これで、日々暮らして行く事ができるのだから。 でもさ、やっぱりつまらないのはつまらないのだ。 感情は、コントロールできないよ。ふと思い煩うものだからね。 今日の妄想は、蛇と一体になる僕なんだ。我ながら、気持ちの悪い妄想に耽ったものだな。蛇なんて、見るのも嫌だし、触れるなんてもってのほかだよ。 さあ、会社に向かうとするか。 僕は、妄想世界から現実世界に戻るべく会社に向かう電車に乗り込んだ。今から小一時間、電車に揺られるのだ。 僕の乗車する駅は始発駅だったから、通勤時間でもたいてい座ることができた。 僕は窓際に座って、田舎な景色から徐々に殺伐とした景色を眺め、うつらうつらするのが日課だ。 今日も、そのつもりだった。 おい おい 起きろ 起きろよ お前は へびの 仲間だろ ニョロニョロ しろよ 人間の姿なんか して ばか ばか 俺たちの 仲間に なっただろ 遠くから、何やら不明な声が聞こえてきた。 僕はへびの仲間だって? 妄想はまだ続いているのか。僕の頭は本当にイカれてしまった? 違う イカれてない 窓の 外を 見よ 声につられて、車窓を見遣った。 おお、なんと! 蛇、蛇、蛇、、。色とりどりの蛇が渦巻いていた。 他の連中には蛇が見えてないのだろうか。誰も驚くことなく、いつもと同じ様子だった。 妄想を解き放て 解禁だよ 解禁 お前の 妄想は 解禁された 妄想は 現実に なった お前は へびだ 人間から へびに くねくね 契りを交わしただろ もう 人間には 戻れない 僕は蛇。そうか蛇なんだな。 じゃあ、つまらない仕事、嫌だ、なんて感情とおさらばなんだな。 それで良かったのかも知れない。内なる願望が叶うのだ。 気持ちが決まると、即座に僕の身体は滑りを帯びだし、蛇となってするりと外に出た。電車の中にいる、疲れた表情をしている他の乗客に全く気づかれず、するりするりと人間界を後にした。 残された、僕のカバン。 誰か届けてくれるかな。まあ、落とし物届けを出されても、引き取りには行けないのだけど。 でもさ、カバンがそのままゴミの様に放置されるのもなんだか、切ない。 一応、人間として存在した証だから。 乗客の皆さん、駅員さん、よろしくね。        
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