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ファウスト×ランバート編
それは突然だった。
いつものように夕食を終えて二人の部屋に戻ってきたはずだった。
の、だが……
「……なにこれ」
扉を開けると内装含めて見覚えのない部屋。ツルンとした床面にやたらと豪華なベッドが目立ち、サイドボードには香油にタオルにと下世話な準備。
そして脇には明らかに怪しげな瓶が十本置かれている。
「ファウスト、部屋閉め」
「え?」
がっちゃん!
「……」
「……」
ファウストが入った瞬間扉はひとりでに閉まり、しかもやたらと厳重なロックの音が響く。
そして扉の上部に突如文字が浮かび上がった。
『強力媚薬十本を飲まないと出られない部屋』
「……うそ」
聞いた事があった。とある界隈でこの手のどすけべ部屋が突如現れては消えているという。だがまさか、ここで? という虚しさと脱力感が酷く、ランバートは崩れ落ちた。
「開かないな。それに、壁もどういうわけかびくともしない」
扉を開けようとしたり、壁を軽く叩いてみたりしているファウストが溜息をつく。
いや、報告書では分かっている。この手の部屋からの脱出方法は一つなんだ。
「まぁ、アレを飲めば出られるんだろう」
「!」
それは部屋の壁際に置いてある怪しげな瓶。そこに大股で近づいていくファウストをランバートは必死に止めた。
「待って!」
「どうした?」
「俺が全部飲むから!」
振り返り、疑問そうな顔で首を傾げるファウストにランバートは必死に言いつのった。
普段だって絶倫のこの人に強力媚薬だと? 殺す気か!
「お前一人でアレを全部か? それなりに量もあるし、辛いだろ」
「ファウストが飲んだら俺は腹上死確定だろうが!」
「そんなには……」
「……飲んだ後、俺に手を出さずに我慢できる自信はあるのか?」
「…………」
真顔で黙ったよこの人。
ランバートは溜息をついて瓶へと近づく。そして一本を手にすると少量を手の平に取り、ほんの少し舐めた。
甘い匂いと味はするが、痺れたりはしない。苦いならまだしも、甘いならある程度いけるだろう。
思い、一瓶を一気に煽った。
「おい!」
「近づくな! いいか、ベッドに座って動かないでくれ」
「俺も……」
「一滴でも飲んだら離婚だからな!」
キツく厳命して、そのまま二本目を煽る。時間をかければ薬が回る。その前に飲みきってしまえば解放されるんだ。
が……
「……うっ」
八本を飲みきった所で甘さが気持ち悪くなってきた。それでなくてもしっかり夕飯を食べた後だ。この媚薬、絶妙に甘い。三本目くらいまでは美味しく飲めたのに、四本目、五本目になるとその甘みがくどくなり、七本目では若干胃が受け付けない。また量も微妙に多い。
それと同時にじわじわと薬が効いてきている。体が熱く内側がざわめく。切ない気持ちと人恋しさに泣きたくなる。急激に弱気になって心細くもなってくる。普段なら絶対にないものだ。
衣擦れだけでもゾワゾワして、腹の中まで疼いてしまいそうだ。
そして、完全に前が反応している。
「……くそ」
負けてたまるか。そして絶対後で作者殺す。
その一念だけで九本目の瓶を煽ったランバートは直後に咽せて、ズルズルッと床にヘタレ込んだ。
「ランバート!」
「くるな」
荒くなる息を吐き出し、弱い声で伝える。今この人に触られたら陥落する。情けなく縋って、泣きながら求めてしまう。そんな姿は見せたくないと結婚しても思うのだ。
「あと一本、だから……」
掴む手がぷるぷる震える。息が上がって色々とままならなくなる。その目の前で、大きな手が瓶を取り上げ栓を抜いた。
「ファウスト!」
驚いて声を上げたランバートの手に、瓶が置かれる。そして包み込むように後ろから抱き込まれた。
「俺は、飲まない方がいいんだろ?」
「……ファウストぉ」
「今回はお前の意志に従うが、許してくれるならこの一本は俺がもらう」
卑怯者、こんなの……耐えられないだろ。
ふわりと香る甘い匂いは媚薬の匂いではない。温かい熱は甘えてしまいたい。動けないまま切なさに締め上げられたランバートはもう動けない。
手の中の瓶が取り上げられ、すんなりとファウストは飲み込んでいく。瞬間、これまで見えていた部屋は跡形もなく消え去って普段から知っている二人の部屋に戻った。
抱き上げられ、ベッドへと連れていかれる。丁寧に寝かされ、衣服を剥がされ、そのまま肌に唇が触れた。
「あぁ! はぁ、んぅぅ」
柔らかい唇が肌を吸い、舌が這う。その感触だけで頭の中がチカチカした。心臓が五月蠅い、意識が朦朧とする。背に回した手をギュッと握った。
「なるほど、効くな」
「ファウスト……」
「大丈夫だ」
優しい声で「大丈夫だ」なんて言われたらどうにも堪えられない。既に外れかけている理性の箍は簡単に切れた。
首筋に触れる唇にも過剰に反応して喉元を晒せば、そこにもキスが降る。弱い部分を晒せる相手というのは心地よくて、それすらも握られていると思うと奥の深い部分が喜びに痺れる。
ビクビクと反応する体、濡れそぼって完全に立ち上がった部分からは透明な蜜が溢れ出して濡れている。
首、鎖骨と触れる舌はいつも以上に熱い。そして触れてくる手は性急に足の付け根を撫でて揉んだ。
「んぁあ! はぁ、あっ……ぁあ!」
これだけで腹の中がキュウキュウと締め付けられる。中イキしている自覚があった。
「ランバート」
優しい声音、柔らかな視線、甘やかす笑み。けれどファウストも薬が効いている。いつも以上に高い体温と滲み出る汗、時折辛そうに歪む眉根。
それでも傷つけないようにと気遣って、性急にはしない。もうそれだけで愛しさが溢れてくる。
「ファウスト」
甘え越えで背中に手を回し、抱きついた。もう滅茶苦茶にされてもいいから、早くこの人が欲しい。
そういう感情を読み取ったのか、ファウストは動いてくれる。大きな唇に食べられてしまいそうだ。キスをされながら胸を弄られ、それでもまた達した。痛いくらい張り詰めた胸はその後舌でされてもたまらず、そこだけで何度も甘イキして頭がくらくらする。優しく、でも確かに殴られているような感覚に意識は少し遠くなって、でも新しい刺激にすぐ覚醒する。そんな、ふわふわした状態だ。
「っ、ランバート、辛くないか?」
押し殺した声に問われて、ランバートは涙目のまま訴えた。
「お願い、切ないファウスト。もうずっとイッてる」
「ランバート」
「きて、ファウスト。俺の中、埋めてよ。俺、今変なんだ。ファウストにずっと抱きついていたい。中まで感じたい。お願い」
体が切なくて、気持ちが切なくて訴えたランバートに、ファウストのまた男の色気が滲み出る。
太股に触れていた手が奥の窄まりへと伸びて一本が侵入してくる。たったそれだけでランバートは達した。心臓がバクバクと音を立てているのを感じる。ビリビリと痺れたまま戻ってこられなくて引きつったような息が漏れた。
「もう柔らかい?」
「ファウストぉ」
「っ!」
もうダメだ、抑えなんてきかない。
訴えるように名を呼ぶと、彼はすぐに香油を取り出してそれをランバートの中へと押し込むと己の剛直を宛がい、一気に奥まで入り込んだ。
「あぁ! はぁ、あぁぁぁ!」
快楽に串刺しにされて、ランバートは背をしならせてイッた。頭の中が真っ白で、ただただ気持ち良くて分からなくなる。足先にも、しがみつく腕にも力が入った。
「っ!」
腕の中でファウストも震える。直後、奥が濡れていく感じがあった。入れただけで達したんだと感じて、湧き上がる感情があった。
愛しい。嬉しい。抑えのきかない思いに泣きながら、ランバートは腰を揺らめかせる。
「ランバート、すまない」
「あやまら、ないで。俺、嬉しいから。ファウストに求められるの、ちゃんと好きだから」
普段思っても言わない事が簡単に出てくる。
泣きながら伝えた思いにファウストは男らしく甘く笑い、そのまま掻き回すように打ち付ける。打ちのめされて気持ち良くて、ずっとイキっぱなしになって、それでも止められない。
出るものもなくなってぐちゃぐちゃになってもお互いに求めている。
それは一晩、甘い甘い夜となった。
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