からっぽの私

3/15
前へ
/132ページ
次へ
藤原真琴(ふじわらまこと)、30歳、独身。 職なし彼氏なしの崖っぷちアラサー。 この度人生というレースに敗れ、惨めにも数年振りに実家に帰ってきた。 「……はぁ」 深いため息をつく。 顔を上げて目に入ったのは実家の和菓子屋。店の名前は【風鈴】。 昔ながらの佇まいと言えば聞こえは良いかもしれないけど、曾祖父の代から続く店舗はボロいし主力商品はずーっとどら焼。 父は私と妹には好きな事をしなさい、と言ってくれたからどちらも一般企業に就職。多分この店は父の代で終わるだろう。 「……」 少しだけ、寂しい気持ちはあるけれど今さら和菓子職人なんてなれないしな。 はぁ、ともう一度ため息をついた時。 「いらっしゃいませ。お買い物ですか?」 「え」 店の中から作務衣を着た男性が出てきた。 黒髪で目元がキリッとしたかなりのイケメン……というか物凄い美人……いやいやそうじゃなくて。 普段店は父母で切り盛りしていてアルバイトを雇ったなんて聞いてない。
/132ページ

最初のコメントを投稿しよう!

203人が本棚に入れています
本棚に追加