奥村

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奥村

黒い眼帯を付けた教祖はまだ20代に見えた。 端正な顔立ちも相まってブランド品のスーツを着た姿は新興宗教の教祖というよりモデルか高級店のホストを連想させた。 娘の周りで不審火が相次いでいた。 1番最初は、部屋に置いてあったティッシュペーパーが燃えた。 異臭に気づいた妻がすぐに初期消化を行った為、幸い大事には至らなかった。 出火当時、家に居たのは妻と娘のリナの2人だけだった。 妻は娘が火遊びをしたのだと思い、リナを叱る。 娘は泣くばかりでソレを認めなかった。 次に燃えたのは手拭きのタオル、次は新聞紙、全て娘が家にいる時だった。 1回目のティッシュペーパーの件以来、娘の手の届くところに、火をつける道具は置いていない。 しかし立て続けに起きた2件の発火を防ぐ事はできず、リナは相変わらず火をつけた事を認めなかった。 奥村は娘を反省させようと寝室のクローゼットに閉じこめると、その直後クローゼットの外にある寝室のカーテンが燃え上がった。 この段になって奥村は事の異常さに初めて気がついた。 コレは呪詛だ。 政治家が原因不明の死を迎える時は呪殺の可能性が高い… そんな噂を以前から奥村は半信半疑で聴いていた。 まさかソレが自分にふりかかるとは信じられなかった。 ただ目の前で起こっている事は疑いようのない事実で、他に説明のしようが無かった。 結局、議員の上村のツテを頼り、辿りついたのがココだった。 議員という人種は意外と迷信深く、験を担ぐ、上村もその例外ではなかった。 呪詛なんてある訳がないという常識的な判断を捨てていいのだろうか? こんな新興宗教を信じていいのだろうか? 娘を助けなければならない。 先生の紹介だ…ここなら何とかなるかも知れない。 目まぐるしく変わる自分の感情を抑える事が出来ない。 そして極めつけに教祖から聞かされたのは、娘には精霊の魔神がついていて、いずれ命を失うという受け入れ難いものだった。 その言葉は決断を決めかねていた奥村の態度を硬化させるのに十分だった。 奥村は謝礼を入れた封筒と引き換えにリナを迎えに行くとホテルを後にした。
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