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カプセル
両親は流行り病で死んでしまった。
だから私はココに居た。
現在も過去も未来も私には絶望しかなく
年長の土佐犬そっくりの男にいつも暇潰しにイジメられていた。
その日はボランティアの手品師が園を訪れていた。
園長が、各自が持っている1番いい服を着てきなさいと言っていたので、普通のボランティアではないと私は感じていた。
黒のタキシードに眼鏡をかけた男が予定通りの時間に現れた。
今にして思えば、手から花やら万国旗が出てみたり、ステッキが現れたり消えたりする子供騙しのマジックだったが、娯楽の無かった当時はとびきりのエンターテイメントだった。
最後に男は、開いた両手を振ってヒラヒラさせると手を握って拳を作った。
その拳を広げると一瞬で指の間にガチャのカプセルが現れる。
片手に4個、合計で8個のガチャのカプセルにはお菓子が詰められていて、男がソレを配ると子供達は大喜びした。
私はさっそくカプセルを開けると中からチョコレートを一つ取り出して口に入れた。
甘いチョコの味が広がる。
しかし他の子達はカプセルを開ける事が出来なかった。
力自慢の土佐犬が顔を真っ赤にしてもカプセルが開かなかったので私は愉快でたまらなかった。
男が子共達のカプセルを開けてあげ、マジックショーはお開きになった。
「未世ちゃん ちょっとコッチに来なさい。 綾瀬さんから話があるから。」
園長から呼ばれた。 手品師の男は綾瀬という名前らしい。
園長はいつもと別人のようにニコニコしていて怖かった。
「君はウチの子にならないかい?
ぜひやってもらいたい仕事があるんだ。
ココの数倍、美味しいご飯とフカフカの布団は保証するよ。」
綾瀬は単刀直入にこう切り出した。
悪くない話だと思った。 でも上手い話には裏がある事を私は知っていた。
「体なら売りませんよ。」
私はキッパリと断った。
「僕は女衒じゃないよ。
君には結界士になって欲しいんだ。
あのカプセルを開けられた君にはその資質がある。」
綾瀬は笑いながらそう答えた。
「結界士? 何ですかそれ。」
「クソみたいな仕事だけど、金には不自由させないよ。 少なくともココよりはクソじゃない。
昔ココにいた僕が言うんだから間違いない。」
綾瀬はよくわからない説明をしてくれた
数時間後、私は荷物を纏めて綾瀬と共に運転手付きの車で綾瀬の家に向かっていた。
1時間程、車で揺られて着いた綾瀬の家は林に囲まれた立派な日本家屋だった。
「綺麗…」
私は思わず呟いていた。
「君には見えているだろう?
この建物に張り巡らされた優美な結界が…
僕の最高傑作、 鏡結界だ。」
綾瀬は自慢げに私にそう言った。
30センチ程の六角形の鏡のようなものが幾つも集まってドーム状になり建物全体を覆っていた。
ソレは光を反射して輝いてはいたが、透明な膜の様で、結界の中の日本家屋は普通にその姿を見る事が出来た。
綾瀬は何も無かった様に結界をすり抜け玄関に向かった。
私も恐る恐るそれに続いた。
「コイツはね
呪詛から人を護るバリアーみたいなものだ。 僕らはコレを結界術とよんでいる。
普通の人は見ることも出来ない、僕達ですら触る事も出来ない。
君はこれからコイツを作る勉強をする。
嫌ならいつでもあの掃溜めに帰してあげるよ。」
私は黙って綾瀬の話を聞いていた。
建物の中からは綾瀬の約束どうり美味しそうな夕飯のクリームシチュー匂いが漂っていて、私のお腹はグゥと鳴った。
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