14人が本棚に入れています
本棚に追加
生存者
「もうすぐ高台に出るぞ。」
小柳はそう後ろの隊列に向かって怒鳴った。
汗が滴り落ちる、流石に小柳もこの強行軍はこたえた。
山道に慣れた自分でさえもこんな調子なのだから、後ろからくる連中は尚更だろう。
しかし文句を言う者など誰もいない。
皆が押し黙って黙々と歩みを進めていく…
ここは和歌山県の山中、小柳は警察と消防隊員の先頭に立ち山を登っていた。
小柳は地元の大学で長年この周辺の生態系調査をしていた。
フィールドワークで通い慣れたこの山は小柳の庭のようなものだ。
小柳に地元の消防団から電話がきたのは、まだ大学に出勤したばかりの時間だった。
この日、沖縄行きの旅客機が和歌山県上空で消息をたっていた…
高台に出た小柳達一行が見たのはまさに地獄の光景だった。
なぎ倒された木々、所々に焼け焦げた後が残り、原型を留めない大きな部品が巨人が遊んだ後のように辺り一面に撒き散らかされていた。
周囲は灯油の様な匂いと焦げ臭さで満ち息をするのもはばかれる程だった。
よくこれで大爆発を起こさなかったものだと不謹慎にも感心していた。
あまりの光景に一時停止した行軍はすぐに再開され、一向は山を降っていく。
現場にたどり着くと一同は展開して救助作業にあたった。
「要救助者発見…」
隊員の1人が大声でさけぶ。
機体の破片の下から足がのぞいていた。
周辺の隊員達が集まって破片を持ち上げる…
その足の持ち主は膝から上がなかった。
そんな遺体ばかりだった。
1時間もした時、誰もが生存者などいない事がわかっていた。
小柳は3回目の吐き気を催し林の奥に向かった。
ふと視線を向けた先に、何か布の固まりのような物が地面に丸まっていた。
また肉片かと思いながら恐る恐る近づくとソレはちゃんと人の形をしていた。
「要救助者発見…
すぐに救急隊員を呼んでくれ。」
小柳は自分でも驚くほどの大声で叫んでいた…
最初のコメントを投稿しよう!