3秒間の永遠

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「原口さんには、いっぱい迷惑かけましたから」 「んなこたねぇえよ。楽しかったぜ、俺は」  目尻にしわを寄せ、原口は再会を喜ぶように徹平の肩をぽんぽん叩いた。 「今日は楽しんでってくださいね」 「おう。もちろんさ」  じゃ、頑張れよ、と片手を上げると、二人は揃って来賓席へと向かって行った。 「てっちゃん、そろそろ始まるよ」  徹平の背に、少年が声をかける。 「もうそんな時間か」  腕時計を確認すると、「サンキュー、昇龍」徹平は昇龍の頭をくしゃりと撫でた。 「ママのこと、よろしく頼むな」 「オッケー」  右手の親指を立てると、昇龍は切れ長の瞳に笑みを浮かべた。  親類縁者が集まる関係者席へと走る昇龍の向こうに、パイプ椅子に座り優しく微笑む椿の姿が見えた。  膝の上には、二歳になったばかりの愛娘、永遠(とわ)がちょこんと乗せられている。その手首には、真新しい白杖の紐が掛けられていた。  ふっと笑みを浮かべ、徹平が愛おしそうに三人を見つめる。 「よしっ」  ひとり力強く頷くと、徹平は仲間たちの待つテントへと向かった。  山の稜線が、夕日を背に浮かび上がる。  茜と藍が混ざり合う、黄昏色の空の下。  花火大会開始を告げるアナウンスが、声高らかに響き渡った。  観客たちのざわめきが、一瞬消える。 「三、二、一、点火!」  まだ初々しさの残る徹平のかけ声が、夏の夜空に舞い上がった。  黄金色の菊花火が、夕闇に染まり始めたキャンパスを華麗に彩る。  客席から、割れんばかりの歓声が上がった。  花が開いてから消えるまでは、およそ三秒。  その僅かな瞬間を、心の中に刻み続ける。  いつまでも。  永遠に……。 (了)
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