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「おい、宮原の手術が終わったぞ」
勢いよく、病室のドアが開く。それと同時に入り口から顔を覗かせた修作は、徹平の顔を見るなり「帰ってたのか」と一言だけ言うと、友里子を促し再びドアの向こうへと消えて行った。
「ちょっと行ってくるから」
徹平の肩をポンとひとつ叩くと、友里子は小走りでそのあとを追いかけた。
ドアが閉まると同時に、重苦しい静寂がのしかかる。ふうっと大きく息をつくと、徹平は恭介に向き直った。
「兄ちゃん。宮原さんの手術、終わったって」
返事はない。
「様子、見に行ってやれよ」
ピクリともしない恭介をじっと見つめ、徹平はそろりと重い腰を上げた。
ベッドのヘリに手を乗せ、恭介の方へと顔を寄せる。その拍子に、ベッドがぎしりと耳障りな音を立てた。
「いつまで寝てんだよ。怪我、大したことねぇんだろ?」
恭介は、浅い呼吸を繰り返している。
「さっさと目ぇ覚まさねぇと」
その耳元に口を近づけ、徹平は小さく囁いた。
「俺がもらうぞ。椿」
恭介の瞳は、相変わらず固く閉じられたままだ。微動だにしないその姿に、悔しげに顔を歪めたあと、徹平はゆっくり立ち上がった。
「なぁんてな」
ふっと寂しくひとつ笑うと、「またな」徹平は、静かに病室を後にした。
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