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ふいに外が騒がしくなり、ノックの音が響く。エミリアはゆっくりと立ち上がり、テーブルに置いてあるお菓子の袋を手に玄関へ向かった。扉を開くと黒猫やヴァンパイア、魔女など様々な仮装をした子どもたちがいた。既にいくつかお菓子の入ったジャック・オ・ランタンのバスケットを前に出し、一斉にお決まりの呪文を唱えた。
「トリック・オア・トリート!」
エミリアは目を細め、ひとりひとりに「ハッピーハロウィーン」と声をかけてお菓子を渡した。全員に行き渡ると子どもたちは満足そうにお礼を言い、次の場所へ駆けだす。エミリアはその後ろ姿を見ながら遠い目をした。
もし、自分が魔女だと正体を明かしたらどうなるだろう。こんな夜ならば面白がってくれるだろうか。エミリアは淡い期待を振り払う。異端であるとされた者たちは、一体どんな末路をたどっただろう。数百年、人間たちが繰り返してきたことを思い返せば、心がすっと冷えていった。
扉を閉めて、再び暖炉の前のロッキングチェアに腰掛ける。ゆっくりと揺られながら、もう一度瞼を下ろした。
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