晴れ間

2/2
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
「そばにいた俺より智久の方が楓のこと知ってたなんて…」 「落ち込むなよ。さっさと諦めて次の青春を駆け抜けろって。バンドやる?」 「やらない」  チャラチャラしていても、男を好きになった俺にも偏見のない「恋愛相談」に乗ってくれるのは智久くらいだろう。  俺はそれが嬉しかったし、心からの救いでもあった。絶対口にはしないけれど。 「陸はさぁ、真面目すぎるんだよ。そのくせ不誠実」 「…なんでだよ」 「だって告白して相手をその気にさせたのに、振り向かせた途端ポイだろ?うわぁ」 「語弊が果てしなさすぎる」 「秋山にとってはそういうことだろ?それなのにこんな所でうじうじしちゃって。…バカなの?」 「だ、だって諦めきれないだろこんなの!!楓は俺を嫌いなわけじゃないんだし!!た、たぶん…」  自信なく消えてゆく語尾を掴み取るように、智久はニヤッと笑った。 「なんだ、答え出てるじゃん。それなら秋山が本当の意味で振り向くまで当たって砕けてくれば?骨なら拾ってやるし、もし陸が面白おかしく噂されるようなことがあれば…」  飲み終えたフルーツジュースのパックが智久の手でぐしゃりと潰れる。 「俺が黙らせといてやるからさ」 「智久…」  清々しいほど強気なエールと共にゴミが押し付けられる。素直に感謝させてくれないのが智久流だ。  それでも陰鬱だった俺の心はかなり見通しよく晴れた気がした。 「うん…。そうだ。そうだよな」  諦められないなら、前に進め。  もう一度楓と話をしてみよう。もっと楓を知っていこう。  その結果がやっぱり実りなくとも、この気持ちに悔いが残らないように。  俺は週末を待ち、何の約束も取り付けないまま楓のアパートへ突撃することに決めた。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!