22人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
「そばにいた俺より智久の方が楓のこと知ってたなんて…」
「落ち込むなよ。さっさと諦めて次の青春を駆け抜けろって。バンドやる?」
「やらない」
チャラチャラしていても、男を好きになった俺にも偏見のない「恋愛相談」に乗ってくれるのは智久くらいだろう。
俺はそれが嬉しかったし、心からの救いでもあった。絶対口にはしないけれど。
「陸はさぁ、真面目すぎるんだよ。そのくせ不誠実」
「…なんでだよ」
「だって告白して相手をその気にさせたのに、振り向かせた途端ポイだろ?うわぁ」
「語弊が果てしなさすぎる」
「秋山にとってはそういうことだろ?それなのにこんな所でうじうじしちゃって。…バカなの?」
「だ、だって諦めきれないだろこんなの!!楓は俺を嫌いなわけじゃないんだし!!た、たぶん…」
自信なく消えてゆく語尾を掴み取るように、智久はニヤッと笑った。
「なんだ、答え出てるじゃん。それなら秋山が本当の意味で振り向くまで当たって砕けてくれば?骨なら拾ってやるし、もし陸が面白おかしく噂されるようなことがあれば…」
飲み終えたフルーツジュースのパックが智久の手でぐしゃりと潰れる。
「俺が黙らせといてやるからさ」
「智久…」
清々しいほど強気なエールと共にゴミが押し付けられる。素直に感謝させてくれないのが智久流だ。
それでも陰鬱だった俺の心はかなり見通しよく晴れた気がした。
「うん…。そうだ。そうだよな」
諦められないなら、前に進め。
もう一度楓と話をしてみよう。もっと楓を知っていこう。
その結果がやっぱり実りなくとも、この気持ちに悔いが残らないように。
俺は週末を待ち、何の約束も取り付けないまま楓のアパートへ突撃することに決めた。
最初のコメントを投稿しよう!