留佳さんと美月さん

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 初対面の人と囲む鍋なんて気まずさしかないのではないか。  そんな心配はものの数秒で吹き飛んだ。 「それでそれで?陸くんから見て学校での楓くんはどう?ちゃんと勉強も頑張ってる?」 「えと、まぁ…、たぶん」 「あー、こりゃやってないな!?もう、楓くん。受験の終わりが勉強の終わりじゃないって散々言ったでしょ?あんなに見てあげたのに!そういえばこの前もね…」  美月さん一人で会話がくるくると回っていく。おかげで四人で囲む食卓は至って明るく穏やかだった。  それにしても大仏兄さんは石みたいに寡黙で、楓とも殆ど言葉を交わしていない。本当に仲が良かったのかと訝しんでいると目が合った。 「あ、あの…」  言い淀む俺からふいと視線を外される。その仕草はやはり楓によく似たものだ。  あ…。それからもうひとつ、嫌なことにも気づいてしまった。  留佳さんのクールな眼差しや鼻筋が通った顔だち。それから見上げるほど背が高いところまで、どことなく高田先輩を彷彿とさせる。  もしかして、案外楓の本命って……。 「ねぇ、せっかくだし陸くんの持って来てくれたおやつも開けちゃおうか!いい?」 「え、あ、はい…、もちろん」  美月さんにひょいと覗き込まれて声が裏返る。   「うーん、ジュースももっと買ってくれば良かったぁ。ね、そうだ!来月はみんなでクリスマスパーティーしない?わぁ、名案!仕事のスケジュールどうなってたかなぁ」  白くて綺麗な手がウキウキと鞄から手帳を引っ張り出すも、柳眉はすぐに皺を寄せた。 「んー…タイト!!なんとか頑張れば一日くらい…うーん、うーん…」  唸りだした人を横目に、楓は板チョコを開けながらボソリと呟いた。 「別に来なくていい。そんな日くらい二人でどっか行けば」 「あっ!またそんなこと言う!」 「月に一回来るのもいらない。山越えてくるんだから、冬は絶対やめて」 「でもそれじゃあ楓くんがさぁ…!」  反論しかけた美月さんを留佳さんが手で遮る。 「雪の日は、やめておく」  初めて聞いた留佳さんの声は掠れた低音。  楓が頷いた後に流すように仏壇に目をやったから、もしかして両親が亡くなったことに雪が関係してるのかもしれないと、なんとなく思った。
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