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異変
学校生活は怠惰な日常の上をただ通り過ぎて行く。
そんな中で起こった、ひとひらの変化。
あれだけ一人でふらふらと消えていた楓が、陽だまりを見つけて丸まる猫のように俺のそばから離れなくなった。
あの夜以来触れ合うことはないけれど、楓に少しずつ表情が、笑顔が増えていく。
穏やかに流れる一秒一秒がとても心地よくて、秒針が刻む灯りはいつか互いをかけがえの無い存在に変えてくれるのだと、俺は愚昧なほどに信じていた。
異変が起こったのは突然のことだった。
「…なんだよ、これ」
帰ろうとして下足箱を開けた途端に鼻をついた異臭。
俺の靴の周りは、雑に詰め込まれたゴミで埋まっていた。
「いじめ」や「嫌がらせ」といった言葉が頭をよぎるも、そんな心当たりはまるでない。
それでも俺の背中には、周囲から痛いほどの視線が突き刺さった。
「うわ…、あれ秋山の時と同じじゃね?」
ヒソヒソと聞こえた声に弾かれたように振り返る。クラスメイトの男子生徒二人がぎょっと半歩下がった。
「…今の、どういうこと?楓も前にこんなことされたの?」
二人は顔を見合わせたが、躊躇いながら言った。
「いや、あいつは一度や二度じゃないみたいだぜ。一人で片してるの見たって奴がちらほらいたから」
「それにほら、秋山ってしょっちゅう忘れ物して怒られてるだろ?あれも実は隠されてるんじゃないかって噂で…」
完全に初耳だった俺は衝撃に息が詰まった。
じゃあ、傘や体操服が「ない」と言っていたのもまさか…。
「そんなの、いったい誰が…」
二人は何か言いかけたが、俺の背後に目をくれると気まずそうに離れて行った。
呆然としたまま振り返れば、蒼白な顔をした楓が立っていた。
「楓…」
楓はぐっと唇を噛み、俺から目を逸らした。
「陸、ごめん…。もう俺に関わらないで」
「え…。あ、楓!!」
俺の干渉を拒むように逃げ出した背中は、人をかき分け廊下の向こうへと消えて行った。
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