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何が起きたのか全く分からなかった。
教室に戻り、机に置かれたままの楓の鞄のそばで立ちつくす。いくら待っていても、持ち主は戻らなくて。
「陸…!おい、陸!」
待ち人の代わりに、廊下の窓から金髪頭が手招きしている。
「智久…?」
「ちょっと来い」
覚束ない足取りで廊下に出ると、智久は珍しく真剣な顔で見下ろしてきた。
「お前、何やらかしたの?」
「え…」
「さっき高田先輩に呼び止められた。お前に、鍵を渡した場所に来るように言えって」
「鍵を?」
一瞬何のことか分からなかったが、「高田先輩」と「鍵」となれば自然と浮かんだのは図書室だった。
俺は直感的に楓のことだと悟った。
「分かった。行ってくる」
「ちょっ、待て」
智久は俺の腕を掴み、肉に食い込むほど力を込めた。
「何かやばいと思ったら俺を呼べ。もし相手が高田先輩だったとしても、俺はお前の肩を持つからな」
「…うん。ありがと」
「そんな男前な俺に惚れた?」
「二秒で呆れた」
いつも通りのバカを挟んで少しだけ笑みを交わす。
俺はいくらか冷静さを取り戻し、智久に軽く右手を上げて礼を示してから図書室に向かった。
楓は高田先輩と一緒にいるのだろうか。
いったい楓の周りで何が起こっているんだ。
関わらないでなんて…そんなの、無理に決まってるだろ。
ぴたりと閉まる図書室の扉には『close』が掛かっていたが、取手に手をかけるとキィと蝶番が音を立て、インクの匂いが流れ出た。
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