プロローグ

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 順番を待ってるうちに気づいたのだが、みんな、見た感じが一緒だった。年代は高校生ぐらい。身長はだいたい一緒で、太ってるやつも痩せすぎてるやつもいない。顔も8種類ぐらいしかパターンがないようだ。ただ、髪の色が緑だったりピンクだったりする。  窓口の人も同じだ。ただ、ユニフォームじみたダサイ鎧と剣をつけてないだけだ。  番号札と一緒に、紙を渡された。  毛筆で名前と住所と生年月日を書かされた(技術的な問題で、ボールペンが造れないそうだ)。  名前はともかく、地球での住所や生年月日がなんで必要なのか訊いたら、本人確認のためで特に意味はない、という答え。  どうやら、本当に日本人の集まりらしい。  テントは布ではなく、動物の革でできているようだった。木でできたカウンターがあって、その向こうに八人ほどの事務員が座っている。体感時間にして三十分ほどで、俺の番号を呼ばれた。  「地球にいたころの記憶、まだ残ってますね。学生?  社会人? ……ああ、無職……うん、ちゃんとした職歴があったほうが有利ではあるんですけどね、当座のお金と宿舎は提供するんで、そんなに心配しなくても大丈夫です」 「え、あの、これ、異世界転生ですよね? 水晶玉に手をかざして、冒険者レベルとかユニークスキルがふわっと浮かび上がってきたりとか、そういうんじゃないんですか」 「最近、そういうこと言う人ほんとに多いんですけどね、こう、皆を見て、わかるでしょ、なんとなく」 「え?」 「転生者は——私たちは勇者って呼んでますが、『既製品』なんですよ。みんな、一緒の装備してるでしょ。身体も顔も似たり寄ったりでしょ」 「え、じゃあ、ロボット的な?」 「怪我すりゃ血がでるし、腕、切り落としたら骨も筋肉もありますよ。実際的には人間といっていい。ただ、個性がないだけでね」 「あの、神様とか、責任者の人、いないんですか? これ、どういう状況で、俺なんでここにいるんですか?」 「それは誰もわからない。誰も何もわからないまま、あの巨大エントツから一日平均八人ペースで勇者が送り込まれてくる。私だって送り込まれた一人です。たいしたことは答えられませんよ。それよりも、これ!」 「なんです?」 「履歴書用紙」 「……夢もロマンもないですね」 「現実ですから、そんなもんありません。学歴はあんまり気にしませんけど、職歴とか、資格とか技能とか、余さず記入して提出してください。これで今後の待遇が決まるんで、大事です、これ。ちなみに、特技とかあります?」 「……TOEIC 830点」 「……この世界で英語は使わないかな」 「……ですよねえ」 「……ま、とにかく、このあと今日来た皆さんまとめて宿舎までご案内するんで、そちらで宿舎到着日の翌々日までに履歴書提出してください。番号札は出発するときに回収するんで、それまで持っててください。以上です、お疲れさまでした」 「お疲れ様でした」  事務員さん、見た目は学生みたいだったけど、本当はもっと年齢いってそうだった。  はい、次の人! と声を上げる事務員さんに、 「そういえば、一つだけ質問いいですか?」 「はい?」  露骨にめんどくさそうな顔をされた。 「なんで東京なんです? 国の名前」  次の勇者から受け取った書類を確認しながら、顔も上げず、事務員さんは言った。 「夜、晴れてればわかりますよ」  そして、その日の夜は晴れた。  俺は、度肝をぬかれた。
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