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ついにリンネが俺の前まで辿り着いた。リンネは手足に包帯を巻いた俺を下から上まで見上げ、うっ、と喉を詰まらせた。
「ばぁか! ここで泣くんじゃねぇよ!」
「だぁってぇ…」
めそめそと泣きはじめるリンネの両手を取り、間抜けで呑気な音楽に合わせてステップを踏んだ。シュールすぎるこの状況に、ふつふつと腹から笑いが込み上げる。
「……太一ってさ……ズっ、何でそんなに……ズズっ、いい奴、なの」
見事に音を外したステップを踏みながら、リンネはグズグズと鼻を啜り上げる。
「さぁ……知らね。俺がいい奴なのは生まれつきだから……」
むしろ、お前は何でそんなに面白いのかと聞きたい。
くるりとリンネの身体を回し、向かい合う。リンネは鼻水を啜り上げ、がばっと俺に頭を下げた。
「我らがヒーロー如月太一くんにっ、全身全霊の感謝を込めてっ、けっ、敬礼っ……!」
突然直角にお辞儀をしたリンネに、またもや周りの奴らが爆笑した。
こうして中学生活最後の体育祭は、笑いと涙のうちに幕を閉じた。
体育祭が終わると、学校生活は一気に受験モードへとシフトし、予想通りリンネは一高に合格、俺はどうにか三高に滑り込んだ。
あっという間に卒業式、ふわふわと心浮つく春休みを挟み、高校の入学式を迎えた。
春休みのうちは、リンネともクラスの奴らとも何度か遊んだと思う。だがいざ高校に進学すると、これまでの交友関係はものの見事にぷつりと途切れた。
あれほどボッチ不安に襲われていたリンネからの連絡も徐々に減っていき、俺たちの世界ははっきりと別の方向へと分かれた。
もしここで俺とリンネの話が終わっていれば、尊い青春の1ページとして、心のアルバムに面白おかしく刻まれたのだと思う。
だけど、俺とリンネの話にはまだ続きがあった。
物語の後編は、中学卒業から二十年の年月をまたぎ、再開されることとなる。あの頃の俺には想像すらできなかった、何とも気まずいシチュエーションで。
中学生だった俺たちは、すでに三十五歳。それぞれの道の先で、「オジサン」と呼ばれはじめる年齢に踏み込んでいた。
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