まだ15歳

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「ちなみに縁起というのは、〈()って起こる〉と書いてね、この世の事象のすべてが、因果関係によって結ばれているということなんだ。欲しいものが手に入らないから苦しみ、愛する者と別れるから苦しむ。原因があるから、苦しみが生まれる。苦しみから逃れるためには、その原因を絶たなければならない」 「お前の人生って、苦悩の詰め合わせお歳暮ギフトだな」 「太一って、ほんとに悩みがなさそうで羨ましい」  リンネの席は窓際の一番後ろ。俺はその前の席で、いつもリンネの愚痴に付き合わされている。  ――マズいマズい。こんなことをしてるうちに、貴重な昼休みが終わってしまうじゃないか。 「なぁ、それより早く英語の宿題見せてくれない? 現在完了ってほんと意味不明だよな。現在なのか、過去なのかはっきりしてくれって感じ」 「haveプラス過去分詞。過去から現在までずっと続いている事象を示す。つまり輪廻を繰り返す魂のことだよ」 「そろそろ輪廻の話はやめにしようぜ」  リンネはため息を吐き、机の中をごそごそと漁った。英語のノートを見つけ出すと意味ありげに視線を落とし、黒い眉をしかめる。 「僕は人の為にならない善意は悪だと思っているんだ。特に宿題を見せるなどという行為は僕の倫理観から大きく逸脱している。つまりそれは偽善、あるいはspoil(甘やかし)。だけど太一だけは例外だ。どうぞこっそり写したまえ」 「いつもサンキュー」  リンネはなぜか俺にだけは宿題を見せてくれる。ありがたくノートを受け取り、宿題の例文を慌てて写しとる。  いつもながら英字新聞のような几帳面な文字だ。リンネの精神の一部がノートに憑依してしまったような。  写しているあいだに、授業開始のチャイムが鳴った。クラスメイトがガタガタと席に着きはじめる。最後の例文を書き殴り、急いでリンネにノートを返した。
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