まだ15歳

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まだ15歳

「つまり輪廻というのはだね、死んで、生まれ変わって、また死んで、また生まれて、生と死の循環をぐるぐると永遠に繰り返すことを言うんだよ。生きることは苦悩に満ちている。僕たちは人生という名の牢獄に囚われた哀れな囚人なのだ」  教室の窓に降る爽やかな秋の日差し。だが、黒縁眼鏡の奥の涼やかな瞳は生きる苦悩を力説する。  俺のクラスメイト、その名もリンネ。  リンネの生きてきた十五年にいったい何があったのだろう。中三の男子が昼休みに語ることが生きる苦悩とは、これ如何に。 「人生は苦しみだと考えたのは何も仏陀が最初で最後じゃない。四苦八苦という言葉あるだろう? 生老病死、愛別離苦(あいべつりく)怨憎会苦(おんぞうえく)……あと何だっけな。まあとにかく、この世は自分の思い通りにいかない。多種多様の苦しみに彩られているんだよ」  リンネの与太話に、はぁ、と相槌を打った。  俺の人生に苦しいことなんてあったっけ? 毎日そこそこ楽しいけどなぁ。 「そんな永遠の苦しみを言い表す縁起の悪い名前を息子につける親がこの世のどこにいると思う? 僕が自分の名前の意味をはじめて知ったとき、どれほど絶望したかわかるか。やはり僕の両親はどうしようもない馬鹿なのだよ。字面が格好いいだとか、語感がオシャレだとか、あるいは学があると思われたくて見栄を張って付けたに決まっている。僕はそんな馬鹿親の(ごう)を背負わされた哀れな子どもだ。キラキラネームなどと僕をからかう阿呆どもは奈落の底に堕ちるがいい」  リンネの本名は林輪廻(はやしりんね)といい、自分の親を馬鹿だ阿呆だと罵る癖がある。実際リンネはコロコロと職を変える酒飲みの父親と気分のままに家出を繰り返すダメ母から生まれたとは思えないほど、優秀な脳みそを持って生まれた。  勉強が苦手で運動神経しか取り柄のない俺とは正反対のタイプ。それなのに妙に馬が合った。  中学の一年から三年まで同じクラスだったせいもあって、いまじゃ親友のような関係。ちなみに俺たちの通うド田舎中学は一学年に二クラスしかないので、縁があるとか、奇跡とか運命とか、そういうレベルの話ではまったくない。
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