時を渉る遺伝子

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キースとヘンリエッタの関係は、なんとも定義しがたいものだった。 ふたりのあいだに子を成したものの、恋人だったことはない。 夫婦だったことすらない。 しかしすでに家族と言えた。 息子がいるからというだけではない。 ふたりはもはや共犯で、信頼する友人でもあった。 よるべのないヘンリエッタの戻る場所があるとすれば、それは彼女の息子とその父親のいるこの場所であった。 「ずっと思っていたんだが」 「なんだい?」 「アンセルと十四の俺の件は、時空連続帯に影響しないのか。時の魔女のとして、看過できることだったのか」 「まあ、全体からすれば些細なことであるのはたしかだがね。ルートが多少違ったていどで、未来にたいした影響はなかったろうしな」 「──それで?」 「我々もべつに“正義のみかた”というわけではないからな。充分許容範囲の犠牲だという判断だよ、九葉キース博士。あなたをこちらの陣営に引き込んでおけるならな」 「俺になにをさせたい」 「その話はいずれ。今はまだ、そのときではない」 「あの子を危険に巻き込むような真似は許さない」 「もちろんだ。あの子は、ぼくにとってもかわいい息子だからな」 ヘンリエッタはにっこりと微笑んだ。 それは、アンセルとよく似ていて、まるで似ていないような表情だった。 「忘れているかもしれないが、あなただけがあの子の親というわけではないのだ」
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