金曜日の来訪者

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金曜日の来訪者

 バイトを終えて帰宅した(さとる)が、エレベータを降り、ワンルームマンションの自室が見越せる、共用廊下へ差し掛かると、違和感を感じて、足を止めた。 (あれ、消し忘れたのか?)  歩みを進め、廊下側に面した窓が、煌々と(ひか)っているのを目にし、徐に首を捻った。バイトに出る時、部屋の電灯を点けたまま、部屋を出てしまったのだろうと、己のうっかりと結論付けたが、部屋の扉へ鍵を差し込み捻った処で、次の違和感に襲われた。鍵は空回りして何の手応えもなく、思わず悟が疑問を呟いた時、ドアは内側から開かれた。   「遅いよ、もぅ──。バイト、二十一時までだよね? ここまでバイクでどれだけ掛かるの? いいとこ十分だよね?」  矢継ぎ早に言葉を掛けられ、驚いた悟は、言い返せずに相手を(みつ)めた。   「ま、良いや。早く入んなよ。もう、これからは金曜日のバイト休んでよね──」  自分の部屋であるにもかかわらず、何処か恐縮した様子で、スニーカーを脱いだ悟は部屋へ上がった。   「お風呂沸いてるからね。悟が入ってる間にご飯(あっ)ためるから。カルボナーラ作ったんだ。先週失敗したからさ。リベンジだよ」 「あの──(うらら)? 君……どうやって部屋に入ったの?」  いよいよ堪らなくなって悟が尋ねると、 「ガスメーターのとこ、合鍵入れてるって言ってたじゃん。それ使った」  悟が脱いだパーカーを受け取り、ハンガーに掛けながら麗が答えた。   「いや、確かに言ったけど……」  それは、実家の母親が、突然の訪問に使うためのもので、(かれ)に合鍵として、使うことを許可したものではなかった。口籠った悟を睨んだ麗は、   「何? なんか不都合有るんだ?」  途端に不機嫌を口調に見せた。悟が麗の顔を見ると、悟の視線を誘導するように、麗は視線をテレビの前に置かれた、小さなテーブルの上へ向けた。   「あっ──」  悟が思わず声を上げると、   「健康なのは良いことなんだけどさ……ちょっと趣味悪いんだけど。なんだよ、悟、あんな下品な女の子が好きな訳?」  悟がテーブルの上へ目を当てると、見覚えのないクマのぬいぐるみと、見覚えのある成人グラビア雑誌が置かれていた。いかにも読み潰されて──と言った様子のそれは、ベッドのマットレスの間に忍ばせていた物で、悟の母親ですら、気を遣って触らずにいてくれるものだ。 「これからは自粛してよね。汚らわしい──」  ぷぅ──っと頬を膨らませた麗に背中を押され、悟はバスルームへ追い立てられた。 (まいったなぁ──)  湯船に浸りながら、扉の向こうから聞える、ご機嫌そうな鼻歌を聴いた悟は、麗と出会ったあの日を思い出した。
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