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悟ver.【俺、カフェでバイトをしています】
予定していた大学の講義が、教授都合で中止となり、何時もは入らない時間帯で、悟はバイトのシフトに入った。駅前のショッピングモールに隣接したカフェで、駅が見越せる場所にあり、結構繫盛している有名なチェーン店だ。
時刻は、丁度午後のティータイムも終わった頃で、空席も目立ち、一緒に働いていた従業員の一人が、休憩時間に入った時刻。
店舗前も人通りが途絶え、自動ドアが開くことも無く、十分ほど過ぎたころ、もう一人のバイトが、ゴミ出しの為に店を出て行き、悟一人が店舗に残され、そんな時新しい客が来店した。
自動ドアの開く音に、洗い物を片付けていた悟が、振り向くより先に来店を歓迎する挨拶を向けると、
「カフェラテくださる」
何処高飛車な調子でオーダーした中年女性は、会計に財布を取り出し、料金をトレーに置くと、
「あ、そうそう、これ使うの忘れてたわ──」
クシャクシャに縒れた、一割引きのサービスチケットをポイ──っとトレーへ投げた。
チケットを受け取ろうと目を当てた悟は、有効期限の印字を見て、それが既に期限切れとなっていることに気付き、掴み掛けていた手を退いた。
「申し訳ありません、そちら期限が切れています」
悟の指摘に剥れ顔を作った女は、
「なによ、ちょっと過ぎただけじゃない? 使わせてよ」
口調から、期限切れだったことなど気付いていて、出して来たのだろう女は、長身だが品の良い優しい顔をした、バイトの悟を言いくるめようと、当然のように食い下がった。
「申し訳ありません。バーコードを通さないと適用されないので……」
悟の説明に、これはどうしようもないと、理解したのだろう女は、
「ふん、じゃぁ私はこの一割引きで注文出来ないって? え? なんだか、一割増しで買うみたいだわ。気分悪いわね──」
この言葉には、さすがに店内の客が女へ視線を注ぎ、自分に当てられた、軽蔑の眼差しと、店内を駆け巡った薄笑いに気付き、女は漸く黙り、
「いいわ。カフェラテ、ホットのMサイズで。早く用意してちょうだいッ」
苛立ちを叫んで窓際のカウンター席へ座った。
(一人の時に限って──ツイてないなぁ……)
胸の内で深いため息を着いた悟は、手早くカフェラテを作ると、女を呼び出し提供した。
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