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カルボナーラの誘惑 ★BL表現あり
小さなテーブルに、麗と並んで座った悟は、カルボナーラをフォークに絡めながら、
「親戚の叔父さんに、不動産屋に知り合いがいてさ、支店を何件か回って、やっと見つけたんだよ」
家賃は安いが、敷金と礼金の折り合いを付けるのに、悟が難儀したことを話して聞かせると、麗は沁々と項垂れ『敷金礼金かぁ』と唸った。
「大学入ったら一人暮らしするの?」
N大に通うこととなったとしても、不便は無いだろうと、悟が疑問を向けると、
「通学には良いんだけどさぁ──親が煩くて……」
悟のマンションから、丁度一キロほど離れた、県境の住宅街に麗の家はあった。小高い丘の中腹に拓けたその一帯は、謂わば富裕層の邸宅が集まる一帯だった。麗の父親は警察官僚で、その厳格さは、麗の愚痴として数え切れないほど聞かされていた悟だ。随分年の離れた年下の母親は、固陋な父親のいいなりで、麗の家庭では、カラスも父親が『スズメだ』と言えばスズメなのだった。
「週に一回こうして外泊するのだってさ、やっと赦してくれたんだもん──男なんだから、『まちがい』なんて心配しなくて良いっての」
麗はカルボナーラソースで汚した口唇を、無造作に舌先で拭った。ひょっこり現れた赤い舌が、妙に艶冶な動きで、可愛らしい口唇を滑り、ギク──リと身構えてしまった悟を、麗は誘惑うような視線で瞶め、もう一度ゆっくりと上唇を舐めて見せた。
「や……辞めようよ。そう言うの良くないよ」
耳まで赤く染めた悟を麗は笑い、『やめない』と更に悟へ迫り、
「辞めて欲しかったらキスしてよ」
瞼蓋を伏せて、口唇を突き出して見せた。
こうなると利かない麗を、良く知っている悟は、渋々口唇を重ねた。
「──ちがう……もっとちゃんとしたキスが良い」
軽く触れて、離れようと思っていた悟の首を、麗は絡め取り、悟に伸し掛かると、強引に舌を絡める接吻けを強請った。
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