新聞部活動日誌⑪ 理由(野球部)

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「取材ですか」 「そうだ。もうすぐ、甲子園出場に向けての地方大会が始まる。その取材に行って欲しい」 南校舎の片隅にある新聞部の部長が新米記者に向けてこう告げた。 「しかし、意味ありますか」 「どうしてだ」 「だって、うちの野球部、弱小じゃないですか。いつも地方大会一回戦負け。そんな野球部の記事なんて、誰も読みたいとは思いませんよ」 A高校の野球部はとにかく弱い。四十年という歴史があるのに、まだ一回も地方大会突破を成し遂げていないのだ。その癖、練習量はめちゃくちゃするのだから、責めるに責めることができないのが現状。 「君の言いたいことは分かる。しかし、買っても負けても、我々には若者の青春を届ける義務がある」 「部長、何歳ですか」 「さぁ、ぐずぐず言っていないで、明日の取材の準備をしろ」 「……分かりました」 新米記者は憂鬱だった。 何で負けると分かっているのに、それをさも畏まって、取材をしないといけないのか。まぁ、もしかしたら、奇跡が起きて、一回戦突破なんてことがあるかも。 そう信じて、インタビュー内容を纏め始めた。 神様なんていない。 一対〇。  定石を崩すことなく負けた。 「ほらね、負けた」 わざわざ休日出勤までしたのに、何たる様だ。 しかし、命令には絶対だ。 記者は主将にインタビューをしにいった。  案の定、ベンチでは、主将を含めて全員が泣いていた。 「あの、キャプテンですか?」 「そうだ」 「私、新聞部の記者です。この度は何と言ったら良いのか」 「君、勘違いしていないか」 「はい?」 「我々が泣いているのは試合に負けたからだと思っていないか」 「……違うのですか」  すると、主将は涙を流しながら、笑みを浮かべて言った。 「嬉しいのさ」 「え」 「これでやっとあの辛い練習から解放されるのだから」  記者は一瞬、相手が何を言っているのか分からなかった。 「え、あの、その」 「甲子園を目指すための集中特訓は本当にきつい。何人もが血反吐をはき、倒れていく。そして、勝てば、まだ、その練習は続いてしまう。でも、負けてしまえば、それまでだ」 全国の野球部から殴り倒されそうな主張である。 「三年生はこれまで許されなかったヘアースタイルを楽しむことが出来る。また、普通に購買のパンを買うことが出来る。良い事尽くし」 ヘタレだ。ヘタレにも程がある。 「ただ、悲しいのは」 「何ですか」 「後輩がこの地獄を一、二年絶えないといけないのだと考えると涙が止まらない
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