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第1章 誰、それ?
さかのぼること、約2年半。
***
「郁美さーん、訊きました?」
出社すると、後輩の妹尾知花がものすごい勢いで突進してきた。
「わ、な、何? どうした?」
「榊原宗介ですよ! 榊原宗介」
「……」
無反応なわたしに知花は驚き、目を見張る。
「えっ、まさかとは思いますが、郁美さん、知らない……とか?」
「うん。誰、それ?」
知花の目はさらに大きくなり、同時に口もあんぐりと大きくなった。
そして、しばしの沈黙の後、知花の雄叫びで、オフィスの静けさが破られた。
「えーーーーーっ! 今、一番旬な超人気俳優ですよ。モデル出身で前回の朝ドラで主人公の相手役をつとめて一躍、時の人。その榊原宗介を知らない人がいるなんて」
知花は驚きを超えて、異星人に遭遇したような顔つきになった。
オフィスで仕事開始の準備をしていた面々が、何事か、と一斉にこっちを見た。
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