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「すみません。ちょっと出かけてきます。ついでに明日のお弁当の食材買ってきますから」
成海はそう言うと玄関に出て行く。
「……一番暑い時間帯に何も出かけなくてもいいんじゃないか?」
浩太郎がそう声を掛けると、成海はどことなく気まずい表情で笑う。
「うーん。相手がこっちに来る用事があるっていうから。一応帽子は被っていきますから」
そう言うと、急いだ様子で出ていった。
犯罪のにおいがする……。
疑いを抱いていると何もかも怪しそうに見えてしまう。
一種の職業病だと思いつつ、浩太郎は自転車を押して出ていく成海を見送った。
相手は蒼太のような子供ではなく、二十歳過ぎた一人前の男なんだから。
失恋のヤケで危ないことに手を染めたりなんてことは……しないだろう。
……そう思いたいのに。
なんでこんなに心配しているんだろう。
浩太郎はいつの間にか家族のような距離に出会ったばかりの青年を据えていることに気づいて戸惑う。
……たとえ一時でも傍に置いた相手に何かあることさえ、自分は許せないんだろうか。
それとも、彼に何かあることが許せないほど自分は……。
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