二度目の幸せ

60/67
前へ
/67ページ
次へ
 浩太郎は唖然としてしまった。つまり、浩太郎以外の作家に夢中になっていたから、それが恥ずかしいという意味だったのか。  眠れない、というのは、読むのに夢中になったから……ということか? 「……あのな……成海くん。別に僕は君が誰の本を読んでいても咎めたりはしないし、無理に僕の本を読んで欲しいとは言わないけど……」 「だけど、それじゃ自分が許せないんです。パパさんにはすごくお世話になってるのに。自分が節操なしに思えてきて……」  成海は顔を隠すようにしてうつむいている。よほど後ろめたいと思っていたらしい。  そんなに気にしなくてもいいのに……。  浩太郎は笑いを堪えながら、成海に歩み寄った。本の一冊を差し出す。 「成海くん、この作家の名前の読み方を知っているか?」 「え? みつもり……にじ?」 「三森虹(みもり こう)。僕の名前と似ているだろう? 自分の名前についた『太郎』が古くさく思えて格好つけた筆名なんだ」  ほぼ本名だと言ったけれど、正確にペンネームまで教えていなかった。というより頑として聞かなかったのは成海の方だ。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加