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臆病で、失うことを怖れていた自分が、こんな風に何かを求めることが、信じられなかった。
どうして、彼のことを放っておけないと気に掛けてきたのか今なら分かる。
自分はこの温かい青年に心を惹かれていたのだ。
けれど、彼には好きな相手がいる。まだあの同居人のことを好きならば、この気持ちは迷惑でしかないだろう。
「一つ聞いていいか? 君は好きな人がいるんだよな? 誰にでもこんな風に抱きつくのか?」
過剰な期待はしない。けれど、それでも確かめたい気持ちになって浩太郎は問いかけた。
成海は意外そうに目を見開いて、それから首を横に振る。
「誰でもじゃないです。……それに、俺は同居人のことはずいぶん前から諦めていたんです。男を好きになることを否定されるのは辛かったですけど。なのにパパさんは俺が男に恋してるって言っても、嫌な顔一つしなかった。困ってたら家に上げてくれて、下宿までさせてくれた。そしたら、俺、段々図々しくなって。パパさんのこと好きになっていいのかなって……」
そう言うと、成海は目を上げた。
熱を帯びた潤んだ瞳。そこに宿る感情に、浩太郎は胸の中で火花が散ったような気がした。
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