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「でも、パパさんは結婚してたくらいだから、可愛い女性ならともかく……俺なんかに迫られるの嫌だろうし。だから言えなかったんです」
成海は自信なさげに呟くと、覚悟を決めたようにまっすぐに浩太郎を見る。
「俺、パパさんのこと好きでいいですか? 絶対あなたの嫌なことはしませんから」
どうして、彼の言葉は自分の心にとけ込むように入り込んでくるのだろう。
自分はずっと心に鍵を掛けてきた。蒼太と二人きりの狭い世界を守ろうとしていた。
大切なものを失うことを怖れてきた。
そんな自分の中に鍵などお構いなしに入り込んできたのは成海が初めてだった。
「だったらそのパパさんはやめてくれ」
「え?」
「そんなに僕に対して気を遣う必要はないんだ。……君と同じ、だから」
まるで中学生にでも戻ったように、浩太郎は言葉をおろおろと頭の中で探った。
……作家なのに、情けない。こんな時気の利いた言葉が使えないなんて。
「……その……君が六歳も年上で子持ちの男やもめでも構わないんなら、だけど……」
そう告げると、成海は信じられないように目を見開いた。
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