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「帽子はちゃんと被ろうね。それから、迷子にならないようにパパさんの手を離しちゃだめだよ」
電車の中でまるで母親のように注意事項を説明する成海も上機嫌そうだった。隠し事が実は単なる誤解だったと分かったから、すっきりしたのかもしれない。
園内は夏休みとはいえ平日のためか、思ったより閑散としていて学生カップルや祖父母と孫、という組み合わせが目についた。
「男三人ってのは、どうなんだろうな」
傍から見たら、妙な取り合わせだろうか。
「……まあ、パパさんと蒼太くんなら、誰が見ても親子っすね。美形親子。瓜ふたご」
成海は蒼太の前では今までの態度を変えようとはしなかった。呼称も今まで通りだ。
「間違ってるぞ」
「さすが作家。厳しいツッコミ」
そう言いながらも、二人の目は先頭切って走り出す蒼太に向けられている。
「あんまり遠くへ行くんじゃないぞ」
浩太郎はそれを追いながら、自分が踏み出す一歩が真新しいもののように思えていた。
成海が隣にいて、そして蒼太がいて。
今ならば妻はハリセンを収めて、微笑んで見ていてくれるだろうか。
……浩太郎が、人生二度目の幸せを手に入れたことを。
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