北海道エゾシカ猟物語

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それは、弾丸が「鉛」でできていたためである。 鉛弾を誤飲したワシなどの動物が、鉛中毒になって死亡する事例が相次いだのだ。 そこで、北海道では狩猟に鉛弾を使用することを禁止した。 鉛の弾を所持するだけでも違法になるのだ。 * * * * * * 狩猟の解禁日を迎え、俺たちはさっそく、狩猟の仕事始めを行った。 俺の御先祖様は、明治の開拓時代に秋田から北海道に入植してきた。 当時、狩猟を行う者たちは「マタギ」と呼ばれていた。 俺の家系では代々、酪農をしながら兼業で狩猟も行ってきている。 俺にも、マタギの血は流れているのだ。 昔、マタギたちは、山を神聖なものととらえ、身を清める儀式を行ってから山に入っていた。 山の神は女神であると考え、当時の狩猟は女人禁制であった。 縁起がいい数字は12とされる。 それは、山の女神が1年に12人の子を産むと考えられてきたからだ。 かくいう俺も、山に入る時に弾を12発持って行くのは、縁起担ぎの意味もあったりする。 基本的に、マタギたちは複数人で山に入る。 当時の猟の技術では、1人で山に入ってもたいした猟はできなかったからだ。 何人ものマタギたちで、獲物を包囲して追い込むのだ。 包囲役、追い込み役、そして狙撃役。 役割を分担して猟をする。 猟の儲けは、役割に関わらず完全に等分する。 例え、その猟で何も活躍しなかった者がいても、分け前は平等なのだ。 これがマタギの文化である。
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